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【2024/03/29 18:53 】 |
それから
いつも独りぼっちだった。
 
 
いや、
 
 
独りぼっちの自分を演じてたんだ。
 
 
いつも誰かのせいにして、
 
 
いつも世界を斜に見下して、
 
 
悲劇の主人公を気どって。
 
 
 
 
ははは、これじゃまるで喜劇だ。
 
 
 
 
自分の寂しさを埋めたいだけ、
 
 
こんなにも愛されていたのに。
 
 
あまりの幼稚さに涙がでてくる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
なんで生まれてきたんだろう。
 
 
 
 
 
 
いいや、
 
 
生まれたきた意味を作ろう。
 
 
私は独りじゃない。
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
太陽が波間でキラキラ輝いている。
 
 
アルルは海の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
 
マリアが寂しそうに見つめている。
 
 
 
「姫君、スズミヤ卿へお伝えください。帝国の力の根源はマナであることを」
 
ガーム・ベル=イブリスのローブが、潮風にひるがえった。
 
 
「アルルさえ居れば、マナを封じる術を見つけることができるからして」
 
風に飛ばされそうになりながら、プロ・クーン博士は言った。
 
 
 
「いずれ、王家の一族が蜂起する時が参りましょう。それまで、アルルは人として我らと共に」
 
サクラは、ガーム・ベルを見つめた。
 
「わかりました。アルルをお願いします」
 
 
サクラの言葉に少年が振り返る。
 
潮風に揺れる蒼い髪、
 
蒼い瞳がサクラを見つめる。
 
 
「アルル=デュオス」
 
サクラは少年へ声をかけた。
 
「お別れよ」
 
「ああ」
 
蒼い瞳の少年は応えた。
 
 
 
サクラはアルルを抱きしめた。
 
アルルの唇にサクラの唇が重なる――
 
 
 
 
 
「どこにいてもずっと一緒よ」
 
「ああ、ずっと一緒だ」
 
サクラの涙が胸に滲むのを感じた。
 
 
 
 
「行こう。アルル」
 
ガーム・ベルはローブの襟を立てながら声をかけた。
 
アルルはサクラの肩に手を添え、ゆっくり身体を離した。
 
 
「さよならは言わないよ」
 
少年が右手を水平に上げると、蒼い光に包まれブルードラゴンの姿に変わった。
 
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
汽笛を鳴らしながら、船は偽島から離れてゆく。
 
 
 
 ―― 宝玉が集まっていたら世界を救えただろうか。
 
 
船首に手をかけ、サクラは空を見上げた。
 
 
 ―― ううん、もういい。
 
 
 
「クオォォォーーーーン」
 
ガーム・ベル達を乗せたブルードラゴンが、真っ青な空を大きく旋回しながらシルグムントへ飛び去った。
 
 
 
 ―― 仲間を信じよう。きっと奇跡を起こせる。
 
 
 
「あ、アルマさん達やぁ、ご主人さまぁ~」
 
マリアが指をさす船上でアルテリア達が手を振っていた。
 
 
「ありがとーう!」
 
サクラは太陽のような笑顔で手を振り返した。
 
 
 
やわらかな風が、いつまでもサクラ達を包み込む。
 
 
いつまでも、
 
 
いつまでも。

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【2011/07/30 07:41 】 | SS
死闘 後編
「ククク、神だと・・・笑わせるぜぇ。この世に神など居ない。力のある者がねじ伏せ、そしてねじ伏せられるものが居る。それだけなんだよ」
 
将校の目が琥珀色に輝くと、服が裂け、無数の腕が現れた。
 
 
「そなたの中に巣喰うは力ではなく、ただ呑みこみ続けるだけの闇の深淵。まだ気付かぬか、人の子よ」
 
サクラは・・・いや、女神ウルディアは哀憫の眼差しで将校を見つめた。
 
 
「ギャハハハー、ではお前を倒せば俺は神だぁ!そして帝国も俺のものだぁぁ!」
 
将校は無数の手に剣を持ち、サクラへ向かった!
 
 
刃が交わりサクラの神斧が火花を散らす!
 
 
「そなたに世の生きとし生けるものの、罪と!穢れと!業と!想いを!我が身に置きかえる覚悟があるか!無償の愛を持って受け入れることができるかぁ!!」
 
サクラが叫ぶや、眩い光がサクラ達を包み込んだ。
 
 
 
―― これは?
 
ガーム・ベルは目を疑った。
 
 
光に包まれたサクラとアルルの後ろに、命を落としていった多くの仲間達の姿が浮かび上がった。
 
 
―― パドメ
 
そこにはアルルの背に乗る亡き妹の姿もあった。
 
 
―― 奇跡だ
 
ガーム・ベルの頬に涙が伝った。
 
 
 
「いいやぁ!!」
 
サクラが渾身の力を込め神斧を打ち込む!
 
とっさに将校が斬撃を魔剣で受け止めた瞬間、サクラの後ろからパドメの神槍が将校を貫いた!
 
 
「え、な、何ぃ?何だとぉぉー!?」
 
 
光り輝く神槍の聖なる力に、将校の体は真っ白な灰と化していく。
 
 
「お、お前の後ろに居る奴は誰だ?誰なんだぁあああ!」
 
叫び声をあげると、将校の身体はボロボロと崩れ落ちた。
 
 
 
パドメはゆっくりとガーム・ベルの傍に降り立った。
 
そして傷付いたガーム・ベルの身体を抱き起こすと、静かに口付けを交わした。
 
パドメの兄を想う残留思念が力となり、ガーム・ベルの傷を癒してゆく。
 
 
   さぁ、争いのない救いの地へ ――
 
 
どこからともなく静かな声が響くと、死者の魂は光り輝く渦となって空へ昇り始めた。
 
そしてパドメも空へ昇っていく。
 
 
「パドメ」
 
アルルは光の渦となったパドメを見上げた。
 
 
「アルル」
 
振り向くと、サクラが太陽のように微笑んでいた。
 
 
「サ、サクラ。ワ、私ハ、ソノ・・・」
 
「ううん、何も言わなくてもいい。アルルの心の声、ちゃんと聞こえたよ」
 
 
 
 
―― 心の声を聞くことができる神の力。これが竜騎士の真の力・・・
 
ゆっくりと身体を起こすと、ガーム・ベルは空を見上げた。
 
 
 
光の渦の中心には、純白の聖衣を身にまとった美しい女性が微笑んでいた。
 
 
―― ありがとう、ウルディア
 
ガーム・ベルは桜色の髪の少女の方へ歩を進め始めた ――

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【2011/07/30 07:39 】 | SS
死闘 中編
魔物と化したジュドウにガーム・ベルは両腕を釣り下げられた。
 
目の前には目の光を失ったサクラと巨大な蒼竜が対峙していた。
 
 
 
将校は舌なめずりをしながら、ガームベルの髪を掴んだ。
 
「ククク、死ぬ前に面白いものを見せてやる。黒い雷光」
 
 
―― あの蒼竜は確か
 
ガーム・ベルは血で霞んだ目でアルルを見上げた。
 
 
「あのドラゴンはプロ・クーン博士が作り出したバイオノイド。マナにより憎悪の感情を増幅させている」
 
 
 
 
 
 
「お前がじぱんぐを戦禍に巻き込んだのね。裏切り者!」
 
サクラは冷ややかな目でアルルへ言い放った。
 
 
「貴様コソ、ヨクモ今マデ・・・ルルル」
 
アルルも牙をむき出してうなり声をあげた。
 
 
 
 
 
 
「じぱんぐの姫君とバイオノイドのバトルだ、ククク」
 
 
―― じぱんぐ、だと?
 
 
「竜騎士だがなんだか知らんがなw さぁどっちに賭ける?はーっはっはー!」
 
 
―― 竜騎士? そうか、あの2人が・・・
 
 
 
 
 
 
「古ノ盟約ニ従イ、我ガ仇敵ヲ塵ト化セ!リアライズ!!」
 
アルルは巨大な翼を広げ召還魔法を唱えた。
 
 
     シュゥゥゥ――――――・・・
 
 
一瞬にしてサクラの周りを20匹のバハムートが取り囲む。
 
 
 
 
 
 
「上出来だ。姫君を死なない程度に痛めつけてやれ、兵器殿w」
 
将校は満足そう言った。
 
 
―― やめろ、仲間同士で傷つけ合うんじゃない
 
必死に叫ぼうとしたが、深く傷ついたガーム・ベルには叶わなかった。
 
 
 
 
 
 
    「やめぬか!愚か者!」
 
 
 
突然の声に、皆ぎょっとした。
 
そこには、仁王立ちになったサクラがアルルを睨みつけていた。
 
 
「我が使い蒼竜よ、かの者への誓いを忘れたか」
 
低く、神々しい声でサクラは続けた。
 
 
 
 
 
 
―― こ、この声は?
 
ガーム・ベルは力なくサクラを見つめた。
 
 
 
 
 
 
強力な破魔の力に、少しずつバハムートの姿が薄れていく・・・
 
「何故そなたをサクラへ引き合わせたか、まだ分からぬか」
 
 
 
 
 
 
―― ウ、ウルディア・・・か・・・
 
ガーム・ベルは、そこに女神ウルディアの姿を確かに見届けた。
 
 
 
 
 
「血を求め穢れをまとうは人の理。この理を断ち切るには、人のみの力では叶わぬ」
 
アルルに対峙したサクラは続けた。
 
 
「神の力を与えられし者、そなたは人の世で何を求め、求められる?」
 
 
「サ、サクラ・・・」
 
アルルの脳裏にサクラとの出会いの日が蘇る。
 
(あの時、私はサクラに救われた。なのに自分は・・・)
 
 
 
 
 
 
         ―― 我らをお救いくだされ!
 
 
我に返ったアルルは、声がしたほうへ振り返った。
 
 
         ―― このような姿で生きながらえるは屈辱・・・どうか
 
 
魔物と化したジュドウの心の声がアルルの耳に響き渡った!
 
 
         ―― どうか姫様を・・・姫様を祖国へ・・・じぱんぐへ!
 
 
 
 
 
 
「ゆくぞ、我が使い蒼竜よ!人の穢れを祓う時ぞ!」
 
サクラは神斧を手に取ると、アルルの下へ駆け寄り背に乗った!
 
 
はじかれたように帝国の兵士達がアルルの周りを取り囲む!
 
 
 
「下がれ!下郎!!」
 
サクラは神斧で兵士達をなぎ伏せ、ジュドウのほうへ向かった。
 
 
 
 
 
 
―― プギャァーーーーーッ!!
 
魔物となったジュドウがサクラへ飛び掛る!
 
 
「我と共に救いの地へ ――」
 
サクラの神斧が閃光となりジュドウの体を横切る!そしてジュドウは光に包まれ灰と化した。
 

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【2011/05/18 11:20 】 | SS
死闘 前編
 レギオンズソウルへ続く辺境の道をガームベル達は走り続けた。
 
道先に一人の武者が倒れているのが目に止まった。
 
 
 
「あれは?」
 
「異国の衣装・・・あれは東方国のものであるからして」
 
「いきましょう!」
 
 
ガームベルは武者へ近づいていった。
 
「おい!大丈夫か?」
 
「き、貴公は?」
 
「私はガーム・ベル=イブリス。そなた怪我をしているのか?」
 
 
 
力なく上半身を起こしながら東方国の武者はガーム・ベルの方を向いた。
 
「拙者、じぱんぐの使者として参ったジュドウと申す。姫君を迎えに参ったのだが何者かに・・・くっ」
 
「しっかりしろ!」
 
 
 
ガーム・ベルはジュドウの手を取った。
 
 
「――温かい手をしておられる。生きた人間の体温を感じまする」
 
「――?!」
 
 
次の瞬間ジュドウの体から無数の触手が突き出し、ガーム・ベルの魔剣を奪った。
 
 
 
「ガ、ガーム・ベル!」
 
プロ・クーンは近寄ろうとしたが、いつの間にか兵士に取り囲まれているのに気付いた。
 
 
「はっはっは!博士、お久しぶりですな!」
 
「き、貴様!」
 
「黒い雷光!いくら光速剣の達人と言えどもコレがなければどうしようもあるまい、ククク」
 
将校はガーム・ベルの魔剣を弄びながら嘲笑した。
 
 
 
          ―― プグシャーーッ!!
 
 
魔物と化したジュドウにガーム・ベルとプロ・クーンは叩きのめされる。
 
 
「カハッ」
 
プロ・クーンは吐血し気を失った。
 
 
 
「ぐ・・」
 
肋骨が折れる音を感じながらガーム・ベルは将校を見上げた。
 
 
「・・・き、貴様らの狙いは・・・なんだ?」
 
「ククク、シルグムントを手に入れた今、次は東方諸国よ」
 
「まだ民を・・・苦しめないと気が・・・済まぬの・・・か」
 
「民?民だとぉ?ギャハハハハーw!」
 
 
将校は嘲るようにガーム・ベルを見下ろした。
 
「てめえらなんか民じゃねぇ、家畜なんだよーwこいつもなぁー!」
 
将校は爆笑しながら魔物となったジュドウを指差した。
 
 
 
「ウ・・ルディ・・・ア・・・の護も・・りあ・・・」
 
ガーム・ベルは血だまりの中で気を失った。
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
「姫君、蒼竜はシルグムントが作りあげた魔物です」
 
「アルルは・・・魔物・・・敵・・・」
 
麻薬を投与されたサクラは無表情で答えた。
 
 
「洗脳は上手くいっているようだな」
 
「はい、後は蒼竜ですが・・」
 
「ふん、人間に感化されたバイオノイドを落とすなど容易い」
 
「では、そろそろ姫と会わせますか?」
 
「いいだろう。ショックで自殺するかも知れないけどなw」
 
 
科学者達は笑いながら実験室を出ていった。
 
後には、人形のように魂の抜けたサクラが独りたたずんでいた。

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【2011/03/02 03:01 】 | SS | トラックバック()
交刃
 遠く、国境付近に暗黒の炎遠く、シルグムントの国境付近に暗黒の炎が燃え上がる――
 
 
パドメとアルルは、神殿の上からその炎を見つめて続けた。
 
 
 ――パドメ
 
 ――はい
 
 ――聞コエタカ?
 
 ――はい
 
 
 
パドメとアルルは短い言葉を交わすと、再び沈黙し暗黒の炎を見つめ続けた。
 
 
 
  ―― パドメに・・・・兄の・・・ガーム・ベルの心の声が聞こえた
 
 
 
アルルが振り返ると、いつものように優しく微笑む金髪の少女が居た。
 
 
      ただ、その碧い瞳に泪をためて ――
 
 
----------------------------------------------------------------------
 
 
「遅かった」
 
魔法陣からの転送が完了するや、ガーム・ベル=イブリスは走りだした。
 
 
「陳謝する、もっと早くに気付くべきであったからして・・・」
 
ガーム・ベルに続くプロ・クーンの目は疲労で血走っていた。
 
 
「いえ、博士のせいではありません」
 
「あの娘を助けなくては・・・」
 
「急ぎましょう!」
 
二人は遺跡の地下深くへ続く、次の魔法陣へ駆け抜けた。
 
 
-----------------------------------------------------------------------
 
「・・・・クッ」
 
氷のような金属の冷たさにアルルは目を覚ました。
 
 
「おはよう、我が愛すべき兵器殿。ククク・・・」
 
目を琥珀色に光らせ将校が言った。
 
 
 
アルルは四肢に魔印錠が枷せられていることに気付いた。
 
「・・・サクラニ指一本デモ触レテミロ・・・皆殺シニシテヤル」
 
アルルは全身に魔闘気をみなぎらせた。
 
 
 
「姫君は大切な人質だ、殺しはしない」
 
将校はゆっくりとアルルへ近づいた。
 
 
 
「ただ、お前が殺すのは私ではなく、反乱軍の雑魚共、だ!」
 
 
将校は獣のように目を光らせ、アルルへ顔を近づけた。
 
「お前は我々が作り出した生物兵器、なんだよw」
 
 
 
       ――――!?
 
 
 
「そもそもドラゴンに変身能力なんかある訳ねぇだろw」
 
 
       ――・・・な・・・
 
 
 
「ハハハハァー!・・・お前はバイオ兵器なんだよぉーwww」
 
 
 
 
 
         ―――そ・・・    そんな    ・・・ 
 
 
 
 
 
 
 
 
           「・・・ウソダ!」
 
 
「既に、お前が生物兵器であることは流布した・・・貴様の居場所は無い・・・・クク・・・クハハー!」
 
 
 
アルルの四肢に繋げられた魔枷により魔力が吸収されてゆく。
 
 
          ――嘘だ・・・私は一体何物なんだ・・・?
 
 
 
 
 
薄れ行く意識の中、アルルの脳裏にサクラの笑顔が浮かぶ
 
 
 
         ―――サクラ
 
 
 
    もう愛する者を失いたくない!
 
 
               ――サクラ・・・パドメ・・・
 
 
           
 
 
 
 
将校を睨みつけたまま、アルルの心は真っ白になった。
 
 
 
 
 
「黒い雷光が遺跡外に出ました!」
 
 
 
「ククク、他愛も無い。ジュドウ、ゆくぞっ!」
 
「御意っ!」
 
 
 
 
 
 
 
      遺跡外の空には真っ赤に染まった月が見下ろして――
 

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【2011/02/23 18:33 】 | SS | トラックバック()
謀略
 「竜騎士」
 
 
それは地上最強の生物「ドラゴン」に認められし者。
 
その強さは数々の伝説となってきたが、本当の力を知る者は少ない。
 
 
竜騎士の本当の力とは「心の声」を聞くことができること。
 
それは神の力にも等しく、歴代の竜騎士達の中でも
 
その力を得た者はごくわずかであった。
 
 
----------------------------------------------------------------------
――夜の遺跡内
 
サクラは先立つ仲間を追って魔法陣へ進んでいた。
 
「すっかり遅れちゃったわね。アルマちゃん達どうしてるかなー」
 
 
そんな中アルルは不穏な空気を感じていた。
 
(この気配は?おかしい・・・)
 
 
 
「お待ちください。スズミヤ卿の姫君とお見受けします」
 
暗闇から声が響き渡った。
 
「誰ダ!」
 
アルルは叫ぶと周りを見渡し、いつの間にか囲まれていることに気付いた。
 
 
「お探ししましたぞ、姫君」
 
暗闇から歩を進めてきたのは、ガルバルディーン帝国の将校らしき男と――
 
(――な?!そ、そんな・・・)
 
 
男の後ろで、隻眼の武士がサクラを見つめていた。
 
「・・・ジュドウ・・・いえ、そんなこと」
 
 
「お久しぶりにございます、姫様」
 
ジュドウはサクラに深々と礼をした。
 
 
「この者は、先の戦役時にシルグムントの騎士団の裏切りに会い、危うく命を落とすところだったのです」
 
将校はサクラの目をジッと見つめながら囁くように言葉を続けた。
 
 
「ジュドウ・・・は死んだはず・・・」
 
「姫君はシルグムントの残党に騙されているのです」
 
将校の目が妖しく光る。
 
 
「そ・・・んな・・・」
 
目がトロンとしたきたサクラに、ジュドウが言った。
 
「この方の言う通りにござる。拙者はシルグムントの漆黒の騎士団に殺されかけ申した」
 
 
「帝国はジュドウの恩人・・・シルグムントは敵・・・」
 
将校に見つめられたサクラは、魅せられたようにジュドウのほうへ歩き始めた。
 
 
 
「サクラ!ドウシタ?ドコヘ行ク?」
 
アルルが大声を上げ、サクラの前に出ようとしたその時、背中に鋭い痛みが走った。
 
 
「グッ!ナ、ナンダ?」
 
振り向くと、背中に小さな針が刺さっている。
 
 
 
「お前には少し大人しくしておいてもらうぞ」
 
「ウゥ・・・サクラニ何ヲ・・・シタ」
 
アルルは徐々に意識が遠くなってくるのを感じた。
 
 
「チャーム(魅了魔術)だ。心に傷がある者ほど掛かり易い。ククク・・・」
 
「キ・・貴・・・様」
 
アルルはドサリと倒れこんだ。
 
 
 
「貴重なサンプルだ、大切に扱え!」
 
将校は周りの兵士達に言った。
 
 
「さぁ、ジュドウよ、姫君を我が拠点へお連れしろ。フハハハハー!」
 
「御意!」
 
 
ジュドウの後に続くサクラ、その瞳からは光が完全に消えていた。

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【2011/02/23 18:30 】 | SS | トラックバック()
最終兵器
   ――よし・・・できた、できたぞ!
 
無菌室で研究者達が歓声をあげた。
 
  ――これが・・・地上最強の生物か・・・
 
      軍服姿の将校がつぶやいた。
         
  ――はい、既に滅亡した生物ですが・・・最後の死体のDNAよりレプリカを
 
  ――ふふ・・・これがマナの力か・・・これを使えば世界は我が帝国の物だ!!ふははは

――このマスターサンプルを上手くマインドコントロールし、量産すれば最終兵器となりましょう
 
  ――くくく、博士にはこれからも、もっともっと頑張ってもらわなければならんな。はははは!
 
 
 
    培養液の中で「兵器」が人間達を睨みつけていた――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
船は偽島の港に接岸され、次々と荷物が下ろされていました。
 
 
「マナ、という物質は既知であるかな?」
 
猫博士は後ろ手に歩きながらサクラへ尋ねました。
 
「ええ、知ってます。不思議な魔力を持った物質ですね」
 
「我輩はマナの研究をしてきたからして」
 
 
猫博士はそっと空を見上げました。
 
真っ青な空に白い渡り鳥がゆっくりと風にあおられています。
 
 
「しかし、マナを使うことを許されるのは神だけであるからして・・・」
 
「猫博士?」
 
サクラは猫博士の悲しそうな瞳に、思わず立ち止まりました。
 
 
「ね、猫ではないのであるからして。我輩にはプロ・クーンという名があるからして」
 
プロ・クーンは慌ててサクラから目をそらし、そそくさと船のタラップを降りてゆきました。
 
 
「そうそう!」
 
プロ・クーンはアルルの方へ振り向いて言いました。
 
「確か貴公は変身能力があるといってたが」
 
「ヘ?ア、アア、見タコトガアル生物ナラ・・・」
 
「その毛を一本もらっておくからして」
 
プロ・クーンは足元に落ちていたアルルの毛を試験管に大切にしまいました。
 
 
「ナ、ナンダ気持チ悪イヤツダナ」
 
「サクラ、アルル、マリア、世話になったからして。では、また相見える時まで」
 
そう言うとプロ・クーンは港に降り立ち、走り出しました。
 
 
 
「なんや、けったいな奴やったなー」
 
マリアがプロ・クーンの後ろ姿を見送りました。
 
 
「ふふふ・・・まぁ偽島に戻るきっかけになってよかったわ」
 
サクラは嬉しそうに微笑みました。
 
 
「アア、明日カラマタ宝玉探シダ、サクラ」
 
「頑張るでー♪」
 
サクラ達は一路、レギオンズソウルへ向かいました。
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ガーム・ベル=イブリスは黒十字の剣を見つめた。
 
(刻印が・・・赤く・・・)
 
 
剣を収め、ローブの襟をたてると魔方陣へ向かってゆるやかに歩を進めていく。
 
 
その瞳に哀しげな光をたたえながら・・・

 

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【2011/01/19 14:01 】 | SS | トラックバック()
血雫
 「ま、まさか!? 黒い雷光がまだ・・・」
 
「は、黒十字の魔剣・・・、間違いございません」
 
「くそっ!死にぞこないが・・・」
 
やせ細った男は、神経質そうに頬を痙攣させながら吐き捨てた。
 
 
 
「はっはっは・・・やっかいなことになりましたなぁ」
 
帝国の将校らしき男が、可笑しそうに肩を揺らした。
 
「こ、このことは未だ公爵様には伝えるな!」
 
「はぁ・・・構いませんが、これからどうするおつもりで。伯爵?」
 
ニヤニヤしながら、将校は紅茶のカップをすすった。
 
 
 
「わ、私が直接赴く!雑兵共に任してはおられん」
 
あたふたと剣を手にしようとする男を将校は制止した。
 
「まあまあ、落ち着いて・・・。ジュドウ!」
 
「は、ジュドウはこれに」
 
将校大声を上げると、隣の部屋から隻眼の初老の武士が入ってきた。
 
 
「な、なんだぁ、こいつはぁ~」
 
「くくく・・・東方国の死兵です」
 
「し、し、し、死兵だとぉ?お前ら人間にそんな魔力がぁ~?!」
 
「西方に偽島という人工島がありましてな。そこで採れる珍しい鉱物を使うと・・・これ、このとおり」
 
将校は可笑しそうに言った。
 
 
「我々、ガルバディーン帝国は『マナ』より死人すら転生させることに成功したのですよ」
 
「な・・・なんと・・・」
 
「この力を持ってすれば、反乱軍など目ではない」
 
 
将校は不気味な笑みをたたえ、呆然とする妖魔の男へ続けた。
 
「この力を伯爵、貴方へお貸ししましょう」
 
「ほ、ほんとうか」
 
「フフフ・・・いずれ公爵様が政権を握られた暁には、我れらと良しなにお付き合い願いたいものですな」
 
 
将校はゆっくりと立ち上がると言った。
 
「そうそう、偽島に黒い雷光が潜入しているとの情報が。何かを探しているらしいですな」
 
「探しもの?王家の生き残り・・・か?」
 
「恐らく。偽島へは自分が行きましょう」
 
 
 
外套に袖を通しながら将校は言った。
 
「偽島に東方国『じぱんぐ』の姫君も潜入したとの報告が。利用するのです!」
 
「じぱんぐ・・・シルグムントの同盟国か」
 
「この死兵はその国の将校。何かと役に立つでしょう・・・ふははは」
 
「・・・」
 
「伯爵!戦争にフェアはない。どんな手を使ってでも勝てば正義なのですよ!」
 
 
将校は館の扉を開け、外へと歩き出した。
 
闇が迫る中、太陽が遠く水平線に血の雫のようにしたたって――

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【2010/12/08 14:04 】 | SS | トラックバック()
道連れ
港に接岸した船から次々と荷物が降ろされてゆき、サクラはぼんやりその風景を眺めていました。
 
「行コウ、サクラ」
 
「え、ええ、そうね」
 
サクラは我に返ると、慌ててタラップを降りてゆきました。
 
 
「コンナ終ワリ方デ本当ニヨカッタノカ?」
 
アルルがサクラに尋ねました。
 
「ええ・・・仕方ないわ」
 
寂しげに微笑みながらサクラは答えました。
 
 
 
ギルドの仲間達に宛てた手紙・・・。
 
それをレギオンズソウルの主人に託し、夜が明ける前に船で島を離れたのでした。
 
 
(お別れじゃない・・・必ず戻ってくる)
 
サクラは静かに歩き始めました。
 
 
 
「ん、何や?あれ」
 
マリアが指を示す先に検問所らしきものが見えました。
 
「アレハ・・・ガルバルディーン帝国ノ紋章ダナ」
 
「なぜこんな所に帝国が・・・」
 
 
「動くなっ!!」
 
突如声がするや、サクラは帝国の兵士達に羽交い絞めにされました。
 
「きゃっ、何するの、この変態!ロリコン!」
 
 
「口の悪い娘だな、何者だぁ?」
 
口髭を生やした兵士が、やる気の無い声でサクラに尋ねました。
 
 
「こらー!!じぱんぐのお姫様になんちゅうことすんねん!控えおろ~う!」
 
(バ、バカ、何言ッテンダ、コノトンマ~!)
 
アルルは思わず額へ手をやり、マリアはしまったとばかりに両手で口を塞ぎました。
 
 
「何ぃ?じぱんぐの姫だとぉ~?」
 
口髭の兵士はにんまりと笑うと、サクラをなめ回すように眺めました。
 
 
「へっへっ・・・うだつのあがらねぇ平民出にやっと巡ってきた幸運か、それとも破滅の罠か・・・」
 
「な・・何する気?ち、近寄らないでよっ」
 
 
 
兵士達に囲まれ絶対絶命のサクラ。
 
その時、真っ白な煙が兵士達を包み込みました。
 
「なんじゃこりゃ~!」
 
「目が、目がああぁ!」
 
 
 
「火急に!こちらであるからして!」
 
兵士達が大騒ぎをする中、誰かがサクラの手を引きました。
 
アルルとマリアも夢中で声のする方に駆け出しました。
 
 
真っ暗な道を駆け、橋を渡り、物陰にすべりこむサクラ達。
 
 
「はぁはぁ・・あ、ありがとう。私はサクラ。サクラ=スズミヤ」
 
「礼には及ばぬからして」
 
暗がりに目が馴染み始め、声の主の姿がぼんやり浮かび上がってきました。
 
 
 
白衣に分厚い百科事典を小脇に抱えた、一見普通の学者風の男。
 
ただひとつ違っていたのは・・・どう見ても猫なのでした。
 
「・・・猫?」
 
「我輩は猫ではない。れっきとした学者であるからして」
 
 
   ――ガクン!
 
 
そのとき、突然地面が揺れ始めました。
 
「ワワ、地震カー!?」
 
「地震ではなく出航であるからして」
 
「ええー?出航おぉ!?」
 
どうやら、いつの間にか乗ってきた船へ戻っていたようです。
 
 
 
「さよう。偽島なる人工島へ赴くのであるからして」
 
「はあぁ?私たち偽島から戻ったばかりなのに~」
 
「それは好都合。我が同志の下への案内を依頼したく」
 
「何なのよー、それぇー」
 
 
 
サクラ達は奇妙な道連れと共に、一路偽島へ、仲間の下へ戻ることになったのでした。

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【2010/12/01 11:35 】 | SS | トラックバック()
儚想
「イブリス様。あれは・・・?」
 
遥か先から飛竜(ワイバーン)の群れがこちらへ向かってくる。
 
「・・・妖魔の軍でしょうか?」
 
「いや、この時間にウルディアの結界を破ることはできまい」
 
第9騎士団はその歩を止め、ドラゴン達が頭上を旋回するのを眺めた。
 
 
 
「お兄様ーーっ!」
 
ブルードラゴンに乗った美しい少女がガーム・ベルに手を上げた。
 
「パドメ!」
 
「お兄様っ!」
 
パドメはガーム・ベルの側に降り立った。
 
 
 
「お兄様、この先に帝国軍が待ち伏せをしています!」
 
「そうか」
 
ガーム・ベルは優しく微笑みながら答えた。
 
 
「お退きください、罠ですっ!!」
 
パドメは叫んだ。
 
「漆黒の騎士団が守る国境となれば、そうそう攻め込まれまい」
 
ガーム・ベルは澄み切った瞳で妹を見上げた。
 
 
「死ヌ気カ?」
 
パドメが乗るブルードラゴンが尋ねた。
 
「ふ・・・犬死はせん」
 
「お兄様っ!!」
 
 
ガーム・ベルは騎士達に向かって声を上げた。
 
「我が血はシルグムントの地に!我が魂は女神ウルディアの下へ!」
 
「おおおおぉぉぉーーっ!!」
 
漆黒の騎士団は、パドメを後に国境を目指して進み始めた。
 
 
 
「・・・うっ・・・あぁ・・・」
 
ブルードラゴンは、その背に少女の涙がこぼれるのを感じた。
 
(・・・パドメ)
 
 
 
 ――女神の使い蒼竜よ!
 
(――!)
 
馬蹄の音にかき消されたガーム・ベルの声が蒼竜の耳には聞こえた。
 
――我が妹をたのむ・・・ウルディアの加護(まもり)あれ!!
 
(――貴様も・・・な・・・)
 
 
「パドメ、行コウ。民ガ我ラヲ待ッテ居ル」
 
「そうですね・・・行きましょう」
 
 
悲しげな瞳で蒼竜は黒備えの騎士達を見送った。
 
 
 
 
 地平線に泪のような夕日が落ちる――
 
 
  
    黄昏と共に消え行く想いが――
 
 
 
       沈み行く夕日の如く――

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【2010/10/27 20:42 】 | SS | トラックバック()
黒い雷光
「頑張るんだ、もうすぐ国境を越えられる」
 
夫婦らしき男女と少女が闇の中を進んでゆく。
 
 
「ストーップ!ゲームオーバーだってばよぉー」
 
「むふぅ~ぅん・・・奥様ってば巨乳でいらっしゃるんですねぇー」
 
いつの間にか、武装した兵士に囲まれていることに気がついた。
 
 
 
「伯爵!こんな夜更けに、どちらにお出かけですかな?」
 
蛇のような目をした青白い男が不気味に微笑みながら尋ねた。
 
「き・・貴様・・・何故ここを?!」
 
「ふふふ・・・隠し事とは尋常ではありませんな、伯爵!」
 
 
男が指を鳴らすと、兵士たちは乱暴に伯爵を拘束した。
 
 
「あなたっ!」
 
「お父様ぁー!!」
 
「うるせぇってばよ~ぅ」
 
「げへへぇ~・・・隊長。この女、オデがもらっていいっすかぁ~?」
 
「お前って、ほんと熟女好きだなw まぁ、俺は娘のほうをもらうから、好きにしたらいいってばよー」
 
「あざーーーーっす!」
 
 
 
そのとき、黒いローブ姿の男が、ふわりと間に舞い降りた。
 
「あぁ~ん?あんだ、おめぇ?」
 
金髪にレイバンのサングラス。頬に無数の傷をもった男は、それに答えず
 
ゆっくりと伯爵の元へ歩みだした。
 
 
「て、てぇんめぇ~!ぶっ殺してやるってばよぉーっ!」
 
兵士たちは男を飛び掛ったが、その場にもんどりうった。
 
「あ・・あぁ!?・・足が・・足がな・・無ぁぁ~なぁ~い~ってばよぉ~!」
 
 
 
蛇の目の男が立ちはだかる。
 
「ククク・・・まだ生きていたとは・・・。シルグムントの亡霊は消えるべきですなああああああぁぁぁぁっ!!」
 
男の目が琥珀色に輝くと、巨大な大蛇の姿に変身した!
 
 
黒いローブの男は、サングラスを投げ捨て剣を抜いた!
 
サングラスの下からは。碧く透き通った少年のような清らかな瞳が現れた。
 
 ウィィーーーーンッッ!
 
漆黒の刃が唸り声をあげ、刀身に掘り込まれた白金の十文字がまばやく光を放つ!
 
「――ウルディアの加護(まもり)あれ!!」
 
男は剣に祈りを込め、目を伏せた。
 
 
「クククク・・・黒い雷光おぉぉぉっ!!マナの力を得た、私に勝てると思うかぁーっ!」
 
大蛇の首が7つにわかれ、男の喉笛にが襲い掛かかる!
 
 
――が、次の瞬間7つの大蛇の首が宙を舞った。
 
「良き夜を」
 
男は漆黒の剣を鞘に収め直すと目を開いた。
 
 
 
 
「貴公は、漆黒の騎士団の・・・」
 
「は、ガーム・ベル=イブリスと申します」
 
「黒十字の剣・・・。お父様!漆黒の騎士団の”黒い雷光”ですわっ!」
 
少女が興奮したように言った。
 
 
「もはや昔の話・・・しかし、無事で何よりでした」
 
「ガーム・ベルよ。シルグムントでは反乱軍狩りが始まっておる」
 
「はい、帝国の幹部が辺境の島まで偵察に来ておりました」
 
「アリアドス王の姫君が・・・生きているらしいのだ。帝国も情報を嗅ぎつけた」
 
「な、なんと!それは真実ですか」
 
「うむ!帝国と妖魔が水面下で手を結び、動きだした。ベルフェゴール家率いる保守派の力が衰えたからな・・・」
 
「くっ・・・」
 
「妖魔国では保守派による翻意の機運が高まっておる。私はこれから妖魔国へ協力者を募りに行く」
 
「伯爵様」
 
「ガーム・ベルよ。我が家族を安全な地へ・・・。そして王家の血を探し出してくれ!」
 
「はっ!!」
 
 
消え入りそうなほど細くなった月光の下、シルグムントの明日を作る力が動き出した。
 
 
(・・・偽島に隠された力)
 
ガーム・ベルは思いを馳せた。
 
(過去を操ることが・・・本当にできるとしたら・・・)
 
 
ガーム・ベルは母国復興の希望と、どす黒い不安が首をもたげるのを感じた。

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【2010/10/13 21:35 】 | SS | トラックバック()
手紙
 愛するサクラへ
 
変わりはないですか。貴女は頑張り屋だから無理をしないか少し心配しています。
 
帝国がじぱんぐ本土への侵攻を開始しました。お父様のお陰で、敵を国境で食い止める
ことはできたのですが、多くの犠牲を払うことになってしまいました・・・。
 
クラウンフィールドからの密使によると、東方への領土拡大を狙って帝国と妖魔国が
水面下で手を結んでいるようです。また東方諸国の中には、密かに帝国に加担している
国も在るとのこと。
じぱんぐを守るため、お父様が帝国の息がかかっていない国へ相互同盟を
呼びかけていますが状況は芳しくありません。
 
さすがに偽島まで帝国や妖魔の手が伸びることは無いと思いますが、時勢は急を告げています。
心残りはあると思いますが、じぱんぐへ帰ってくるのです。貴女独りでは危険です。
くれぐれも不用意な行動は慎んで下さい。
無事に戻ることを祈っています。
 
                    ビオラ=スズミヤ
 
 
 
「・・・ふぅ」
サクラは母からの手紙を閉じると溜息をつきました。
 
「溜息ついた数だけ、人はお腹が空くんやでー」
マリアがにニヤニヤしながら言いました。
 
「悩ミニ縁ガナクテモ、腹ガ減ッテバカリノ奴モ居ルガナー」
アルルが嫌味たっぷりに切り返しました。
 
「なにー、それ誰のこと言うてんねん」
「ハン、ココニ居ルノハ私トサクラト、後ハ誰デショウ?ッテナー」
「今日という今日はケリ付けたる、この青チビー!」
「ノゾムトコロダ、コノおっぱい女メー!」
 
 
 
「・・・・・・・・・・」
 
「チョ・・チョット待ッタ・・・。ドウシタサクラ?」
アルルはサクラの様子がおかしいのに気付きマリアを制止しました。
 
サクラの目から大粒の涙が零れ落ち、強く握り締めた手紙を濡らしていました。
 
 
「酷いこと言うて堪忍やぁ。ご主人さまぁ、泣かんといて・・・」
「・・・ううん・・・マリアのせいじゃないわ」
サクラは無理に微笑みながら、手で涙を拭いました。
 
「じぱんぐニ、何カアッタノカ?」
「ええ・・・」
アルルはサクラの手紙に目をやりました。
 
 
「・・・戦禍が・・・じぱんぐ本土まで及んできたようね」
「ナンダト?!」
「帝国が攻め込んできて・・・なんとか国境を守ることはできたようだけど
たくさんの人が犠牲になったって・・・」
「ソウカ・・・」
 
 
「じぱんぐへ帰らなきゃ」
「!?マ、待テヨ。宝玉ハドウスルンダ?」
「でも、苦しんでいる人を見過ごすことはできないわ」
「やっと皆と仲良しになれたところなのに・・・」
マリアが悲しそうにつぶやきました。
 
「マァ、今スグドウコウデキルモンジャナイシ、明日皆ニ相談・・・!?」
突如、窓の外で不穏な気配を感じ、アルルは言葉を飲み込みました。
そっと窓の外を覗き見ると、アストレアと誰かが言い争う声と剣を交える音が響き渡りました。
しばらくすると何者かの走り去る気配がし、アルルは窓から首を引っ込めました。
 
(――国境の封鎖網を強化しろ!)
(――は、どうされましたか?)
(――思わぬ輩がここに居る。迂闊であった)
 
人間の数百倍を誇る蒼竜の聴力が、この者達の会話を聞き逃すはずがありませんでした。
 
「誰かしら?」
サクラがそっとアルルへ尋ねました。
「サァナ。国境ヲ封鎖シロトカ、何トカ言ッテイタナ」
「さっきの声、アスナさんよね」
「アァ。何カガ起コリハジメテイルヨウダ」
 
 
何か、とてつもないことが、自分たちの身の回りで起こり始めている。
サクラ達は得体の知れない不安に駆られるのでした。

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【2010/10/13 21:32 】 | SS | トラックバック()
始まり
 かつて、シルグムントにはいくつかの騎士団が存在し、各地域を守護していた。
中でも妖魔国との国境を守る第9騎士団は、黒備えと数々の勲功から「漆黒の騎士団」と称され
シルグムント戦役時は、数万にも及ぶ妖魔軍と帝国軍の挟撃の中、たった数千の騎馬隊で立ち向かい
3日間も国境を越えさせなかったという。
 
しかし多勢に無勢、ついに退路を断たれた第9騎士団は決死の突撃を試み、戦場の露と消え去ったのである。
 
 
 
遺跡外の場末の酒場――
 
一人の男がバーボンのグラスを眺めていた。
レイバンのサングラスに無精ひげ。頬にあるいくつもの傷が
彼の壮絶な過去を物語っていた。
 
「うーぃっ、おぃ!てめえ!」
「ひっく、このやるぁ!ふざけたサングラスをしやがってぇ~!」
 
いかにもPKといった風情の2人組が、男の両脇に座り込んだ。
とばっちりを恐れ、そそくさとその場から離れる者たち。
 
 
「・・・」
「あんだぁ?びびって声も出ねぇかよぅ~」
「・・・消えろ」
「はぁあ?!」
「・・・皆、迷惑してる」
男はバーボンを呑み干すと、ゆっくり酒場の出口へと向かった。
 
「く、くらぁぁっ!!このガキャあっ!」
「ま、待ちやがれぇえ!」
PK風の二人組は立ち上がろうとしたが、足が地を掴まない??
 
「お、おおおおーーーいいっ!?」
「お、オレッちの足が、足がぁぁあああ!?」
PK風の男たちは、自分の足がくるぶしから無くなって
いるのを見て大声で喚きたてた。
 
 
「すまねえが、こいつで手当てしてやってくれ」
男は、酒場の店主へ金貨を投げてよこした。
 
目を白黒させる店主を尻目に酒場を後にする。
 
 
「・・・」
夜空を仰ぐと、男はゆっくりと宿屋街へ歩を進め始めた。

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【2010/10/13 18:05 】 | SS | トラックバック()
祝福
 晴天の空、流れる白い雲。
 
宿屋レギオンズソウルに仲間達が集まりました。
 
 
 
「古の理に基づき、これより儀式を執り行う!」
 
魔剣を高々と天へかかげ宣言するアストレア。
 
 
 
「かの者、祭壇へ歩を進めよ!」
 
同じく槍斧を天へかかげたアルディンの澄みきった声が響き渡りました。
 
 
 
仲間達が見つめる中、新品の魔衣を身にまとったサクラがあらわれました。
 
 
 
(とても似合ってますわよ)
 
遠巻きにメリュジーヌがサクラへウインクをしました。
 
少しはにかみながら、メリュへ微笑返すサクラ。
 
 
 
「クオォォーーンッ!」
 
手作りの祭壇の前で巨大なブルードラゴンが雄たけびを上げました。
 
 
 
「女神の使い蒼竜よ。この者の盾となり命に従うことを誓いますか」
 
クラウンフィールドの皇衣を身にまとったマリナが微笑ながら問いかけました。
 
 
「誓オウ。イカナルトキモ、サクラト共ニ ――」
 
アルルは巨大な翼を広げ答えました。
 
 
 
「かの者よ。この蒼竜と共に女神ウルディアの槍となり、平和と秩序を守ることを誓いますか」
 
「誓います。いかなるときもアルルと共に ――」
 
 
 
サクラの言葉に呼応するように、竜騎士の指輪が眩しく輝き始めました。
 
  
「こんぐらっちゅれ~しょ~んっ!」
 
「マリア」
 
マリアの姿になった神斧にサクラは小声で注意をしました。
 
 
「てへ、堪忍やぁ~、ご主人さまぁ」
 
くるりと体を回すと、マリアは神斧の姿に戻りサクラの手元に戻りました。
 
―その姿を見て微笑む仲間達。
 
 
 
 
「女神ウルディアの加護があらんことを!」
 
 
 
歓声と拍手がサクラとアルルを包み込む。
 
   さくらが――
 
  アルマが――
 
  メリュが――
 
  アミリアが――
 
 
たくさんの仲間達が笑顔でアルルを祝福する。
 
 
 
   (―― ウルディアよ、ありがとう)
 
  
振り向くと、太陽のように微笑むサクラがアルルを見上げました。

   
   (ありがとう、サクラとめぐりあわせてくれて―― )
 
 
 
万雷の拍手が、いつまでも、いつまでも偽島の空へ響き渡りました。

 

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【2010/08/26 07:42 】 | SS | トラックバック()
覚醒 後編
「― 痛っ!」
右足に激痛が走り、サクラはその場にうずくまりました。
「だ、大丈夫、ご主人さ・・・ひゃ!え、えらい血が出てるー」
 
 
(さっき弾き飛ばされたときね。この痛み・・・恐らく骨折してる―)
 
 
「へ・・・平気よマリア。さぁ、行くわよ」
「あかんあかん。早よ、エナジーフィールドで治さな・・・」
「こんなところで、治癒技を無駄にできないわ。アルマちゃんやさくらさんに迷惑がかかる」
 
サクラは止血帯を付けると、足を引きずりながら歩き始めました。
 
 
 
「む、無茶やぁー。ご主人さまぁー・・・」
半ベソをかきながらサクラを引き止めようとするマリア。
 
「こんな・・・ところで、負けるわけに・・・いかない・・・のよ」
 
 
(―だめ・・・痛みで目が霞んで・・・)
 
 
もうろうとして倒れこむサクラ。
その時、がっしりとした腕がサクラの体を受け止めました。
 
 
「なかなか良い線行ってるが、まだ足りないものがあるな」
金色の髪、涼やかな目をした青年がサクラを抱え上げました。
 
 
「今のサクラに足りないものは仲間への信頼、だな」
「そうよ、ギルド一のヒーラーが居るのに失礼よね」
同じく金色の髪に碧い目の少女がウィンクをしながら言いました。
 
 
 
「ア、アルディンさん・・・アルマちゃん・・・」
「さ、これで大丈夫・・・。立てる?サクラちゃん」
アルマはサクラへ治癒魔法を施しました。
 
 
 
 
「アルディンさん、アルルが・・・」
「あぁ、少々やっかいなことになってるようだな」
「急がなきゃ。メリュちゃんが・・・」
再び、サクラは走り出そうとしました。
 
 
 
「自分ひとりで抱え込むんじゃない。何の為の仲間なんだ」
ピシャリとアルディンが言いました。
 
 
「アルルは貴女の友達だけど、私たちの仲間でもあるのよ」
「アルマちゃん・・・・」
「私達も行くわ。アルルの魔力に対抗するには一人じゃ無理ね」
 
------------------------------------------------------------------------
(いつかは話さなければいけませんわね・・・)
 
そばには、ロシェルが静かな寝息を立てています。
寝付けないメリュジーヌは、そっと寝床を抜け出しました。
 
 
(不思議ですわ。遺跡の中なのに星が・・・マナの力ですの?)
そっと空を見上げるメリュジーヌ。
 
不意に背後に凄まじい殺気を感じ、息をのみました。
 
(な、なんですの?)
 
後ろを振り返るメリュジーヌ。
そこには、今まで見たことがないほど巨大なブルードラゴンが自分を見下ろしていました。
 
「ルルル・・・・」
「――」
あまりの恐怖に凍りつくメリュジーヌ。
 
 
「古ノ盟約ニ従イ、我ガ仇敵ヲ塵ト化セ・・・リアライズ(幻獣召喚)!」
ブルードラゴンが呪文を唱えると、メリュジーヌの周りを8体のベルゼブブが取り囲みました。
 
(あ、悪魔を一気に8体も召喚するなんて・・・な、なんて魔力・・・)
 
 
「アノトキノ借リヲ返サセテモラウ」
「ア、アルルさんですの?」
 
ベルゼブブが一斉にメリュジーヌへ襲い掛かる。
「くっ」
 
メリュジーヌは攻撃をかわしながら叫びました。
「アルルさん、お友達を死なせたことは申し訳ないと思ってますわ!でも・・・でも、私もあの時は・・・」
 
ベルゼブブの魔撃がメリュジーヌの肩を掠める。
「きゃっ・・・わ、分かってくださいませ。あれは・・・あれは戦争でしたのよ!」
 
 
「・・・ナゼ戦ワナイ」
「お友達を傷つけることは、私にはできませんわ」
「アレダケ人ヲ殺メテオイテ・・・笑止!」
 
 
アルルは翼を広げ空へ飛び立つと、魔力を集中しました。
 
「シュウゥゥ― 闇ヨリモナオ暗キモノ、混沌ノ海ヨリ蘇リ・・・」
 
(こ、この波動はパンデモニウム・・・)
 
 
考える暇もなく、メリュジーヌへ無数の魔法の刃が襲い掛かる。
 
その時、一筋の閃光がアルルの前を横切りました!
 
 
「大丈夫?メリュちゃん!」
「サ、サクラちゃん」
 
メリュジーヌを抱きかかえ、稲妻の如く魔法の刃の追撃をかいくぐるサクラ。
 
 
「 カワシタ!?」
「アルル、目を覚まして!」
 
魔法の刃が次々とサクラの残像を貫いていく。
 
 
 
 
               ―― ジュドウは心の狭い、愚かな男にござりました
 
 
 
「アルル!争いからは何も生まれないの!」
 
 
         
               ―― 憎しみは大切なものを奪い去る。このことにようやく気付き申した
 
 
 
「アルルー!・・・お願い・・・聞いてー!」
 
サクラは泣きながら叫びました。
 
 
「お願い・・・自分を守ってくれた・・・仲間を・・・仲間を傷つけないでー!」
 
 
 
 
 
                   ドクン!
 
 
 
 
              ―― 貴方は皆を守って。私の最後のお願いよ
 
 
 
(パドメ!)
 
 
温かい思い出が走馬灯のようにアルルの脳裏を横切る。
 
 
 
ベルゼブブの姿が徐々に薄らぎ・・・
魔法の刃が消えてゆく・・・・
 
 
 
「メリュ、大丈夫か?」
2人の下に駆け寄るアルディン。
 
 
「大丈夫。かすっただけのようだわ」
トリプルエイドを唱えながらアルマが言いました。
 
 
 
「ルルル・・・」
巨大なブルードラゴンはゆっくりと地上に降り立ちました。
 
 
 
「マリア・・・下がっていて」
「ご、ご主人さまぁ~」
 
サクラは武器を持たずアルルの前へ進んで行きました。
 
 
 
「・・・最強ノ魔力ヲ持ツ妖獣ノ王・・・フ、トンダオ笑イ草ダ」
「・・・」
 
「タッタ一人ノ少女スラ守レナイノニ・・・何ガ竜騎士ダ」
「・・・アルル」
 
 
 
いつの間にか巨大なブルードラゴンの姿は消えていました。
 
 
 
「メリュガ憎カッタンジャナイ・・・自分ガ嫌ダッタンダ・・・」
 
 
いつもよりも小さく―― 
哀しいほど小さくなったアルルがつぶやきました。
 
 
「アノ時モ・・・ソノママ、矢ニ貫カレテ死ンデシマイタカッタ・・・」
大粒の涙がアルルの目から零れ落ちました。
 
 
「パドメハ・・・パドメハ、私ガ初メテ愛シタ人間ダッタンダ」
「その人、幸せだったと思うよ。アルルに愛されて―」
 
 
アルルが顔を上げると、いつもの、太陽のような、笑顔が自分を見つめていました。
 
 
「そして、アルルはレギオンズソウルの仲間に愛されている」
アルディンが力強い声で言いました。
 
 
 
「アルルさん、サクラちゃん、ごめんさない・・・私・・・私・・・」
 
涙ながらに言葉を続けるメリュを抱きかかえながらアルマが言いました。
 
「戦争に遭って、皆つらいことがあった。でも、偽島で仲間になった。もう敵じゃないの」
 
 
 
騒ぎを聞きつけ、いつの間にかギルドの仲間達が集まってきました。
「何かあったかむに~?」
「お、アルル何で泣いてるみゃ~?」
「あらあらまあまあ、きっとお腹が空いて夜泣きしたんですのよ。はいクッキーですわ」
 
 
自然とアルルの周りに人の輪ができました。
ふとアルルは懐かしい声が聞こえた気がしました。
 
 
――いや、気のせいだ
 
 
「あー、アルルだけずるいみゃ~。ママ様ボクにもー」
 
 
――パドメはもう居ない。でも私には・・・
 
 
アルルは、あの時と同じ満天の星空を見上げました。

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【2010/08/26 07:41 】 | SS | トラックバック()
覚醒 前編
(遺跡の中だというのに星が見える・・・)
 
アルルはそっと空を見上げました。
 
 
戦いに明け暮れる毎日・・・
今日を振り返る間もなく明日が始まる日々・・・
 
 
(サクラ・・・友達と遊んだり恋愛もしたいだろうに・・・)
 
隣で泥のように眠るサクラを見ながら想いに耽りました。
 
 
(人間は何故に戦うのだろう?こんな無垢な少女を駆り立て・・・)


 
 
その時アルルはデジャブを感じ息を飲みました
 
 
       この感覚?
 
 
             どこかで・・・
 
 
                   ドクン! 
 
 
 
             ―― くすくす・・貴方って器用ね 
 
 金髪の神々しい少女がアルルに優しく微笑みかける
 
 
          パ・・・ドメ・・?
 
 
アルルは、忘れかけていた黒いものがこみ上げてくるのを感じました。


「ルルル・・・」
「ん・・・どうしたのアル・・・!?」
 
息をのむサクラ。
そこには、巨大なブルードラゴンが唸り声を上げていました。


「ルルル・・パドメ・・・パドメハ・・・殺サ・・・レタ」 

「ア、アルル・・・な・・の?」
「ルルル・・・クソ・・・クッソォォォ!!」

巨大なブルードラゴンは翼を広げました。


「ま、待ってアルル」
「ドケェー!!」

凄まじい魔力に弾き飛ばされるサクラ。


「ブッ殺シテヤルー!」

ブルードラゴンは飛び立ってゆきました。


(な、なんて魔力なの。これが・・これが竜騎士の力?!)

サクラは体を引きずりながらブルードラゴンの後姿に目をやりました。


「ご、ご主人さまぁ・・・なんなん、今のバケモノ?」 

荷物の隅で震えていたマリアがサクラに尋ねました。


「アルルよ。バケモノじゃないわ」
「えー、アルルゥ?なんであんな風になってしもたん?」
 
「わからない。それより行くわよ、マリア」
 「え、どこへ?」 



「メリュちゃんの所よ」



 メリュジーヌは寝付けずにいました。 

(アルルさん・・・)


愛しい姉達との再開、ベルフェゴール公爵家の再興・・・ 
めまぐるしく日々が移ろう中、唯一自分を振り返ることができる時・・・

(こんな所で出会うなんて・・・)

メリュジーヌはシルグムント戦役のことを思い出しました。

― 暗黒の炎が燃えさかる村
― 凄まじい魔力で立ち向かってくるアルル 


(そうだった・・・私はアルルさんに命を救われたのですわ)

― 妖魔陣営から放たれた呪いの矢。メリュジーヌを庇い峡谷へ消えていった蒼竜


(私を庇って、アルルさんは魔力だけでなく記憶まで・・・) 

まどろみの中メリュジーヌの目から涙がこぼれました。


― 今すぐにでもアルルの記憶を戻してあげたい 


その思いと共に、サクラとアルルの笑顔が脳裏をよぎりました。 

(私が竜騎士の村を滅ぼした・・・きっと、サクラちゃんもアルルさんも私を恨みますわね・・・) 

2人の友情を失いたくない。狂おしい自責の念がメリュジーヌを襲う。


(パパ・・・ )

メリュジーヌは涙を流しベノムを想いました。

(メリュはどうすればよいのですか・・・ ) 

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【2010/07/28 09:43 】 | SS | トラックバック()
記憶
 じぱんぐ国立軍事病院
 
そこには、傷ついた大勢の武者達が運び込まれていました。
 
 
――ほら、じっとして。ジュドウ
――痛つっ・・・姫様の医術を使えば、きっと妖魔共も裸足で逃げ出しまする
 
隻眼の初老の武者は言いました。
 
 
――ぷー、そんなことを言うならもう手当てしてあげないんだから
 
桜色の髪をした幼い少女はふくれっ面で返しました。
 
 
 
――はっはっは。姫様にかかってはこのジュドウも形無しにござりまする
 
侍大将の軍章を揺らしながら、武者は傷だらけの顔をほころばせました。
 
 
 
 
 
――ねぇ、ジュドウ
 
――は
 
――ジュドウは、一人ぼっちなの?
 
 
ジュドウは遠くを見つめながら答えました。
 
――拙者には娘が居りました・・・そう、ちょうど姫様と同じ位の・・・
 
――へぇー、今どこに住んでるの?
 
 
 
 
 
 
      ――殺され申した
 
 
 
 
 
 
少女は言葉を失いました。
 
 
 
――戦禍に巻き込まれ・・・ずいぶんと昔の話にござる
 
――ご、ごめんさい・・・私・・私・・何も知らなくて・・・
 
――拙者が武人となったのは娘を失ったからにござりまする
 
――・・・・
 
 
 
少女の目に涙があふれました。
 
――・・・うぅ・・・ぁう・・
 
――姫様、涙をお拭きくだされ
 
ジュドウは優しく少女の涙を拭きました。
 
 
 
――姫様。ジュドウは心の狭い、愚かな男にござりました
 
――・・・
 
 
 
ジュドウは少女の目を優しく見つめながら言いました。
 
――争いからは何も生まれぬ、憎しみは大切なものを奪い去る。このことにようやく気付き申した
 
 
 
 
――・・・ジュドウ
 
――は
 
――ジュドウには私が居るわ
 
――御意
 
ジュドウは目を瞬きながら答えました。
 
 
 
――ジュドウ。今まで私達を、じぱんぐを守ってくれてありがとう。これからは私が・・・
 
ジュドウは傷だらけの顔をほころばせて言いました。
 
 
 
 
――このジュドウ、既に姫様に救われておりまする
 
――え?
 
 
 
隻眼の男は天を仰ぎました。
 
 
――次の妖魔との戦を終えたら退役いたしまする
 
――ジュドウ・・・
 
――姫様の側に仕えとう存じまする
 
――・・・
 
――なぁに、老いたれとはいえ、まだまだ斧術は若い者には遅れはとりませぬぞ
 
 
 
 
少女はジュドウに抱きつきました。
 
――ジュドウ・・・必ず・・・必ず帰ってきて・・・お願い・・・
 
 
 
 
              ――・・・・必ず姫様の下に・・・
 
 
 
  
 
 

 
 
「・・・ちゃん!」
 
 
 ――・・・
 
 
「・・・・クラちゃん!」
 
 
 ――!?
 
 
遠くを見つめていたサクラは、メリュジーヌの声で我に返りました
 
 
 
「いきなり、ぼーとしてどうしたんですの」
 
「あ・・・、ご、ごめんなさい」
 
「で、お話って何ですの?」
 
メリュジーヌはサクラの横に腰をかけました。
 
  
 
「竜騎士の村・・・にいたことがあるわよね、メリュちゃん」
 
「・・・・・!?」
動揺するメリュジーヌ。
  
 
「アルルと会ったことがあるよね・・・メリュちゃん」
サクラはメリュジーヌを真っ直ぐ見つめました。
 
 
「な・・・何を言いだすんですの・・・」
サクラの視線をそらすメリュジーヌ。
 
 
「メリュちゃん・・・アルルを助けてあげて!」
 
「!?」
 
サクラはメリュジーヌの手を取りました。 
 
「私も・・・妖魔を憎んだことがあるわ・・・」
 
メリュジーヌ「サクラちゃん・・・」
悲しそうな目でメリュジーヌはサクラを見つめました。
 
 
「でも、ある人が・・・憎しみは大切なものを奪い去るって・・・」
サクラの目には涙があふれてきました。 
 
「・・・私・・・私・・・もう・・・誰も・・・失いたくない・・・誰も・・・」
 
サクラは涙ながらにメリュジーヌに言いました。
 
「皆んな悲しいことがあった・・・でも・・・でも、偽島で仲間になった!」
 
「・・・」
  
「私はこの絆を・・・壊させない・・・どんなことがあっても!」
 
サクラはメリュジーヌへお願いしました。
 
「・・・お願い・・・妖魔の力を貸して」
  

「・・・私には無理ですわ」
  
「!?」
 
「竜騎士なんか知りませんし、アルルさんともお会いしたこともありませんわ」
 
「・・・メリュちゃん・・・」
 
「・・・お話は終わりですの?では失礼しますわ」
 
 
 
 
「・・・かたくなですね」
メリュジーヌの後姿を見ながら、陰で聞いていたさくらが言いました。
 
 
「メリュちゃんも傷ついているんだわ・・・」
サクラはポツリと言いました。
  
 
「サクラさん・・・ジュドウさんは戻ってこられたんですか」
 

 
 
 
                「ええ・・・・・・・・・小さな箱に入って・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
さくらは言葉が続けることができませんでした。
  
 
 
目を真っ赤にし・・・サクラは微笑んで言いました。
  
「メリュちゃんも・・・アルルも・・・絶対救ってみせる・・絶対・・」
 

 
      ― 竜騎士の面影 ―
 
 
 
それを感じたさくらは、忘れかけていた温かい想いが込み上げてくるのを感じました――。
 

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【2010/07/28 09:35 】 | SS | トラックバック()
告白
 古の神獣「蒼竜」
 
竜族の中でも比類なき魔力を有し
 
妖獣の長として妖獣界を治め
 
獰猛な人間をも懐柔し、共存の道を切り開いた
 
聡明なる種族でした。
 
 
 
しかし人間の欲望は尽きることなく
 
求め合い、奪い合い、戦いの果て
 
ついには竜族を戦争の道具として使い始めたのです。
 
 
 
「ドラゴンライダー」
 
そう呼ばれた飛竜達は、人間と共に戦い、傷つき、死んでゆきました。
 
元々長寿である竜族は、300年に一度しか子を生まないため
 
たちまち、その数は激減してゆきました。
 
蒼竜も例外ではありませんでした。
 
 
 
シルグムント唯一の自治国家、女神ウルディアを奉する小国
 
この国に最後のドラゴンライダー達が居ました。
 
彼らは「竜騎士」と呼ばれ、女神ウルディアの誓いの魔力の下
 
その地の民・動物を守っていました。
 
しかしその小国にも戦乱が訪れ、竜騎士達は次々と死んでゆきました。
 
 
 
そして小国と共に竜騎士達も滅び
 
その存在はシルグムントの伝説として語り継がれるのみとなったのです。
 
 
 
:: 
 
 
遺跡内の探索が続く日々。
サクラ達は新しい装備を作り、新たな強敵に備えていました。
 
 
「これでよし、できた!」
「ン、何シテルノー?」
 
アルルはサクラの持っているものを覗き込みました。
「桜撃のブレスレットよ。やっと格闘武器を手に入れたわ」
 
 
「サクラさん格闘も嗜まれているのですね」
いつの間にかギルドメンバーのさくらが、アルルと同じように覗き込んでいました。
 
「コウ見エテモ、斗屡音怒(トルネード)流拳法ノ免許皆伝ダヨ」
自慢げに語るアルル。
 
「へぇ、斗屡音怒流って斧術だけじゃないんですね」
「そうよ。もともと斗屡音怒流って格闘術だったのよ」
「ソレヲ、サクラノ師匠ガ「シルグムント」ノ斧術ト掛ケ合ワセタンダヨ」
 
 
 
ふいに、サクラはさくらへ向き直りました。
 
「ねぇ、さくらさんってシルグムントの人でしょ?」
「え、な、何を突然言うんですか・・・」
 
さくらは虚を付かれ狼狽しました。
 
 
「ヤッパリナ。弓矢ニシルグムントノ国印ガアッタゾ」
「アルマちゃんもよね?もしかしたら王家の人・・・?」
 
 
 
さくらは観念し話し始めました。
 
「仰る通り、私はシルグムントの出身です。そして竜騎士の村に住んでおりました」
「ええっ、竜騎士の村?!じゃ竜騎士にも逢ったことがあるんだ」
 
 
「はい、彼らは崇高な存在でした。そして私の命の恩人でもある・・・」
 
 
 
    さくらはゆっくりとアルルを見つめました。
 
 
 
「ありがとう、竜騎士アルル。貴方のお陰で村人は救われた」
 
「ヘ?」
 
アルルは目をぱちくりさせました。
 
 
「パドメさんは・・・気の毒でした。あの時の私はまだ幼かったので・・・」
 
「チョ、チョット待ッテクレ。何ンノ事ダカサッパリ・・・」
 
「アルルさん。貴方は飛竜達を治める竜騎士の長だったのです。戦争で亡くなられたと思っておりましたが・・・」
 
 
「・・・戦争・・・パドメ・・・?」
アルルは苦しげに空を見上げました。
 
 
「ア、アルルが竜騎士の長だったなんて・・・」
サクラも困惑しアルルを見つめました。
 
 
「村は妖魔の軍に滅ぼされました。でもパドメさんとアルルさんは最後まで私達を守り抜いてくださった・・・」
さくらの頬を涙が伝いました。
 
 
「・・・思イ出セナイ・・・何モ・・・」
悲しげに首を振るアルル。
 
 
「さくらさん。アルルが記憶を失ったのは戦いのせいなの?」
「恐らく・・・妖魔の呪いの力かと思います」
 
 
「・・・ドウシタライインダ・・・私ハ」
「妖魔の呪いを消去するには、妖魔の力を借りるしかありません」
 
 
「そうか、メリュちゃんだ!」
さくらの言わんとすることに気付いたサクラが言いました。
 
「えぇ、彼女にお願いするのが良いでしょう」
さくらは笑顔で言いました。
 
 
   しかし、アルルは悲しげな目で言いました。
 
 
「・・・ナンカ・・・思イ出スノ怖イナ・・・」
 
 
 
   サクラはアルルを優しく抱きしめました。
 
 
「大丈夫だよ、アルル。ほら、暗い顔してると暗い事しか起こらないぞっ」
 
 
   アルルはまぶしそうにサクラの顔を見上げました。
 
「アァ、ソウダナ。前ニ教エテモラッタッケナ」
 
 
 
つらい過去に向き合う決心をしたアルル。
 
サクラは竜騎士の指輪の力で見た、覚醒したアルルの姿を思い出すのでした。
 

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【2010/07/28 09:32 】 | SS | トラックバック()
予兆
 大河ぁと、初の2PT戦を制したサクラ達。
その力はゆっくりと、しかし確実に、目覚めつつありました。
 
そしてレギオンズソウルにてサクラとアルルは、次の探索に向け準備を整えていました。
 
 
「装備を整えて・・・次は未知のエリアよ。何が起こるか分からないわ」
「ウン・・・」
 
「ん?どうしたの、アルル?」
アルルは少し元気が無いようです。
 
「アア、コナイダノ遺跡内カラナンカ調子ガオカシインダ・・・」
「風邪かな?・・・うん、熱はないわね」
 
「竜族ハ変温動物ダカラ熱ハ関係ナイ・・・フゥ・・・」
「あれ?角が・・・生えてるわ、アルル」
 
「エエ?角ダッテ・・・イツノ間ニ」
 
 
二人が話していると、装飾を持ったマリナがやってきました。
 
「サクラさん、ご依頼の指輪ができましたわ」
「わぁー綺麗。ありがとうございます。マリナさん」
「うふふ、どういたしまして。この指輪の名前、どうしましょうか?」
 
 
 
「・・・竜騎士ノ指輪・・・」
 
突然アルルがつぶやきました。
 
「え?何、アルル?」
「ソレハ・・・竜騎士ノ指輪ダ・・・竜騎士ノ・・・」
アルルの目には、いつしか涙が溢れていました。
 
「ど、どうしたの?何泣いてるのよー、アルル」
「ワ、ワカラナイ・・・ソノ指輪ヲ見タラ、急ニ悲シクナッテキテ・・・グス・・グス・・」
 
 
「アルルさん、確か昔の記憶が無いって言ってましたわね。竜騎士の指輪に何か思い出があるのではないでしょうか」
「・・・アルルの思い出か。うん、竜騎士の指輪。そう呼ぶことにします」
 
 
「分かりましたわ。 この指輪に、かの名を刻み込みたまえ 」
マリナの指先が光を放つと、指輪の魔石が蒼色に輝き始めました。
 
 
そしてサクラは指輪を受け取ると、そっと指にはめました。
 
 指輪の魔力がサクラの力と共鳴する――
 
 
               ドクン!
 
 
突然、アルルの姿がもやがかかったように蒼く滲むと、巨大なブルードラゴンの姿が浮かび上がりました。
 
           ――グルルルル・・・
 
 
           ――?!
 
 
サクラは目を疑いました。
 
 
           ――何?今の
 
 
 
 
「ほらほら、クッキーをあげるからもう泣かないんですのよ」
「ホント?ワーイ」
アルルは涙を拭きながら言いました。
 
 
 
           ――マリナさん、気付いてない
 
 
 
 
「オーイ、サクラ。クッキー食ベニ行コウヨー」
「え?え、ええ」
 
 
駆け出すアルルの後姿を見ながら、サクラは何かが変わり始めているのを感じました。
 

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【2010/07/28 09:31 】 | SS | トラックバック()
サクラとさくら
 「せぃっ!やぁ!」
いつものようにサクラは朝稽古を始めていました。
 
木の枝からいくつもぶら下がる石。その石を斧で次々に真っ二つにしてゆくサクラ・・・
・・・とは、中々いかないようです。
 
ごつん☆
 
「あいたぁー」
「フフフ・・・動キガツイテイッテナイゾ」
アルルが可笑しそうに言いました。
 
「つつ・・・ふぅー、上手くいかないわ。嫌になっちゃう」
「イッタイ、何ヲシテルンダ。コンナへんちくりんナ仕掛ケヲ作ッテサ」
 
アルルは、ロープカーテンの様にぶら下がった石を見上げて言いました。
 
「鏡に写る花の如く、水に写る月の如し、よ」
「ナンダ、ソリャ?」
「『これこそ、斗屡音怒(トルネード)流斧術の極意じゃ!』て老師が言ってたの」
「フーン。デ、ソノ極意トヤラノ意味ハナンダイ?」
「えーと・・・テヘッ、分かんなーい」
「・・・ダメダコリャ」
 
 
「鏡花水月・・・目には見えながら手にとることができないもの・・・」
いつのまにか、弓を携えた黒髪の少女がサクラを見つめていました。
 
「あ、さ、さくらさん」
サクラは、恥ずかしそうに声をあげました。
 
「見てたんですかー。恥ずかしいな」
「サクラさん、目をつぶって下さい」
さくらはおもむろにそう言うと、弓を引きサクラに狙いを定めました。
 
「オイ・・・ソレハ洒落ニナランゾ」
アルルはとっさにサクラの前に出ると、さくらを睨みつけました。
 
「サクラさん。貴女は自分が考えている以上の力を持っている。それを開花できないのは、貴女に覚悟がないから・・・」
さくらは、更に弓を引き絞りました。
 
「・・・アルル。そこをどいて」
サクラは、目をつぶると斧を構えました。
 
「マ、マジカヨ・・サクラ」
「覚悟が有るか無いか。はっきりさせてあげるわ!」
 
「良い度胸です!」
言うや否や、さくらの指が矢から離れ、ヒュン!という風を切る音が唸りました。
 
サクラの眉間に矢が突き刺さる―!
 
「ヒャッ!」
アルルはとっさに顔を背け、恐る恐るサクラのほうへ目をやりました。
 
「・・・お見事です」
矢はサクラの髪の毛を掠め、後ろの木へ深々と突き立っていました。
 
「目には見えても捕らえることはできない・・・これが斧術の究極奥義『鏡花水月』です」
「なぜ・・あなたは私の力を解花させようとするの?」
サクラはゆっくりと目を開けると、さくらに尋ねました。
 
「貴女の力が必要だから、です」
初めてさくらは、口元に笑みを浮かべました。
「もちろんアルルさん、貴方もですよ」
 
「さくらさん、あなた一体何者なの?」
「ふふふ、いずれ分かる時がきます。さぁ朝食の時間ですよ」
そういうと、さくらは歩き始めました。
 
 
 
(竜騎士アルル・・・このようなところで再会するなんて・・・)
さくらは竜騎士の村での出来事を思い起こしていました。
 
――暗黒の炎が燃えさかる村
――傷ついた村人達の前で歌う金髪の竜騎士の少女
 
(この歌はカームソング・・・彼女はウルディアの巫女だったのね)
 
――幻獣を呼び寄せ、妖魔の群れから村人達を守る蒼竜
 
(神獣アルル・・・貴方に私達は命を救われた・・・)
 
霜月さくらは、そっと後ろを振り返りました。
(竜騎士の・・・貴方達の力があれば王家は復興できる)
 
 
 
その頃、サクラは物思いに耽っていました。
 
「ナァ、サクラ。オ腹空イタヨ」
「・・・ん?あぁ、ごめん、ごめん。帰りましょうか」
二人は歩き出しました。
 
「ねぇアルル、この矢を見て」
「ナンダ・・・ン?コレッテ」
「この紋章・・・シルグムント王国のじゃないかな?」
「じぱんぐヘノ輸入品ニ入ッテタ印ダカラ、間違イナイナ」
「そっか・・・そういうことなのか」
「ナルホドナ」
 
「アルル、しばらくこのことに気付いてない振りをするのよ」
「アァ、面白クナッテキタナ」
 
 
運命の歯車が、ゆっくり、そして大きく回り始めました。
 

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【2010/07/28 09:30 】 | SS | トラックバック()
女神の子
 ――・・・クラ
 
(う・・ん・・)
 
――サクラ
 
(ん・・・え?)
 
 
サクラが目を上げると、そこに純白の聖衣をまとった美しい女性が微笑んでいました。
 
(あなたは・・・?)
 
――私の名はウルディア
 
(私に何の用なの?)
 
――西へ向かうのです。そこに貴女が成すべきことがあります
 
(西?成すべきこと・・・?)
 
――世界には貴女の助けを待っている人達がたくさん居ます。戦乱で家族を失い、苦しみ、悲しみ、救いを求める人達が
 
(ちょっと待って!私に・・・私に人々を救えというの?・・・無理!そんなの無理よ!)
 
――大丈夫、貴女は選ばれし者、この世界に調和をもたらす力を与えられた者
 
(わ、私はただの女の子で・・・そ、そんな大それた力なんかあるはずがなくて・・・)
 
――さぁ、お行きなさい、西の島へ。そして多くの人達と出会うのです。貴女の成長の礎となり、そして力になってくれるでしょう
 
(ま、待って、ウルディア!貴女は何者なの?)
 
――私はこの地を見守る者・・・そして貴女自身・・・
 
(待って・・お願い・・・私・・私・・・)
 
 
 
「喝っ!!」
背中を如意棒で叩かれたサクラは、思わずもんどり打って倒れました。
 
「禅の最中に居眠りとは、まだまだ修業が足りんようじゃな」
「ご、ごめんなさい、老師。でも私、今お告げを聞いたんです」
「お告げじゃと。夢を見るほど眠りこけるとは、けしからんの」
「ウルディア・・そうウルディアって言う女の人が話しかけてきたんです」
 
「・・・ウルディア、じゃと?」
 
「西の島へ行けって・・・私は選ばれし者だって・・・」
「・・・間違いなくそう言ったのか」
「はい・・・ご存知なんですか、老師?」
「うむ、かつてシルグムントへ旅に出ていたときに聞いたことがある。竜騎士の村と呼ばれた地を守る女神の話を」
「竜騎士の村・・・。父が戦役に赴いた地です!」
 
話を聞いていたアルルは、思い出したように言いました。
「ソウイエバ、私ニ付イテイタ鞍ニ『女神ウルディアの守りあれ』ッテ書イテアッタゾ」
 
「確か、その蒼竜は竜騎士の村で助けられたと申しておったの」
老師はアルルへ目をやりました。
 
「女神ウルディア・・・蒼き神竜はその使い・・・なるほどの」
「老師・・・私はどうしたらいいのですか」
 
老師は闘技場に腰を降ろすと、袂から手紙を出しました。
 
「偽島への招待状じゃ」
「偽島?」
「西方にある島じゃ。そこにはお宝が眠っているらしくての。世界中から猛者共が集まっているらしいのじゃ」
「・・・ウルディアの言う西の島って・・・」
「うむ、恐らくはこのことじゃろうて」
 
サクラは老師へ向き直りました。
「私、自分を試してみたいです。修行をお休みさせて下さい、老師」
「・・・ふむ」
「偽島へ行かせて下さい。お願いします」
「よかろう。シリュウへは儂から話しておこうかの」
「有難うございます、老師」
 
「サクラよ、これを持ってゆきなさい」
老師はローブと斧をサクラへ手渡しました。
 
「蒼天のローブと桜嵐の斧じゃ。それの魔力がお前を守ってくれるじゃろうて」
「わぁーすごいわ、有難うございます。よーし、そうと決まれば早速準備よ!」
「オ、オイ、待テヨー」
脱兎のごとく走り出すサクラをアルルは必死で追いかけてゆきました。
 
(女神ウルディアの子・・・世界に調和をもたらす選ばれし者・・・あの子がそうであったとは・・・)
老師は、サクラの後姿を見送りながら思いをめぐらせるのでした。
 
 
 
(女神ウルディア・・・あなたは本当に私なの・・?)
走りながら、サクラはウルディアの言葉を思い出していました。
 
(もし、私にあなたが言うような力が無かったとしても・・・私は決めたわ)
サクラは立ち止まると空を見上げました。
 
(きっと・・・きっと、皆を助けてみせる。じぱんぐを守ってみせる)
 
 
「サクラ、ドウシタ?」
「ううん、なんでもないわ。アルル背中に乗せて」
「アァ、シッカリ掴マッテロヨ。ソレッ!」
 
 
アルルとサクラは大空へ飛び立ちました。
 
真っ青な空――
 
自由に流れる雲――
 
金色の実りをたなびかせる稲穂――
 
 
二人の気持ちは一つになり偽島へと飛び立っていくのでした。
 

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【2010/07/28 09:25 】 | SS | トラックバック()
希望
 蒼竜は沈んだ目で、自分に付いていたという鞍を眺めていました。
 
(・・・女神ウルディアの守りあれ・・・か・・・)
アルルは、鞍に彫りこまれた文字に目を滑らせると溜息をつきました。
 
――私は何故ここにいるんだろう?
――いったい自分に何が起こったというのだろう?
 
「思イ出セナイ・・・」
アルルは暗い顔でうつむきました。
 
 
 
后は、そんなアルルの様子を部屋の中から見つめていました。
 
「后よ」
「あなた・・・」
スズミヤ卿が部屋に入ってきました。
 
「いかがでしたの?」
「うむ、シルグムントは崩壊。妖魔と帝国が手を組み侵略を始めたようだ」
「そんな・・・」
「隣国から援軍要請がきておる」
「・・・また戦争なのですね」
 
后は憂いの眼差しでスズミヤ卿を見つめました。
「ベルフェゴール家が滅亡し、妖魔達を抑えることができなくなったのでしょうね・・・」
「うん?なぜそれを?」
「今朝、私の祖国より密使が参りました」
「クラウンフィールド皇国から密使とな」
 
后はスズミヤ卿へ手紙を手渡しました。
「・・・クラウンフィールド皇国には、まだ被害は及んではおらぬ・・か」
「ええ、目下の目標は東方諸国のようですわ」
 
スズミヤ卿はゆっくりと椅子に腰をかけました。
「国防のため、サクラを諸国の王と結婚させろと、大臣共がうるさくての」
「可愛そうなサクラ・・・」
 
ふと、スズミヤ卿は窓の外へ目をやりました。
「ところで、竜の様子はいかがじゃ」
「ええ、可愛そうに、大半の魔力と記憶を無くしているようですわ」
「そうか」
「相当つらいことがあったのでしょう。誰にも心を開こうとしませんわ」
 
后も窓の外を眺めました。
 
 
(教えてくれ・・・女神よ・・・)
アルルの頬を涙が伝いました・・・・とその時、ふいに後ろから首固めを掛けられました。
 
「暗ぁーい顔してる子は、いねーがぁ?w」
「ワンワンワン!」
「ウグ・・・グ・・・ク、苦シイィー」
 
アルルは必死に手を振り払うと、不届者の方へ向き直りました。
「コノ馬鹿力メー!マジデ死ヌカト思ッタゾー!」
「あはははー、ごめん、ごめん」
 
そこには、桜色の髪の少女が舌を出して笑っていました。
「でも、暗い顔してると暗いことしか起こらないって、占いの婆っちゃが言ってたわよ」
 
アルルは眩しそうに、笑顔の少女を見上げました。
「私はサクラ、サクラ=スズミヤ。これでも一応お姫様なんだからね」
「ワンワンワン!」
「この子はおとうさん。じぱんぐじゃ有名な白犬なのよ」
 
「ワ、私ハアルル・・・。」
「よろしくね。アルル」
サクラは、太陽のように微笑むと白犬の耳元へ何やら囁き始めました。
 
「ごにょごにょごにょ・・・」
「クンクンクンw」
「!?オ、オ前、獣語ヲ操レルノカ?」
「うふふ、何となくねぇ・・・それっ♪」
「ワン、ワン♪」
 
サクラと白犬はアルルに飛び掛ると、一斉にくすぐり始めました。
「こちょこちょこちょー♪」
「ワンワンワンー♪」
「ギャハハハハー、ヤ、ヤメテェー」
 
 
 
「――姫君には神の使いが寄り添うことになりましょう」
「御婆殿」
アルルとサクラの様子をスズミヤ卿が眺めていると、術師の老婆が部屋へ入ってきました。
 
「神の使いとは・・」
「左様。この蒼竜は異国の女神の使い・・・そして姫君こそ、この国の最後の希望」
「御婆殿・・・」
「全ては運命。この地は女神の御心の下、救われることとなりましょう」
 
后は再び窓の外へ目をやりました。
「サクラが・・・」
 
 
 
「コンノォー、モウ許サンー!」
「きゃー、怒ったー!にゃはははー♪」
「ワンワンワンー♪」
 
夢中になってサクラを追いかけるアルル。
 
(久しぶりだ)
 
空を飛びながらアルルは思いました。
 
(こんな楽しい気持ち、久しぶりだ)
 
「コノ、アルル様カラ逃ゲラレルト思ウナヨー、フフフ・・・・アハハハ」
「鬼さんこちらー、あははー♪」
 
 
じぱんぐの晴天の空の下、いつまでも二人の笑い声が響き渡りました。
 

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【2010/07/28 09:22 】 | SS | トラックバック()
悲しき戦い 後編
「!?」
突然体が軽くなるのをアルルは感じた。
 
「エ・・・エ・・・?」
 
誓いの魔力が解けた?
 
ということは・・・
 
「・・・ウソダロ・・・ウソダ・・・ウ・・・ウソダァァァーーーッ!!」
 
突き上げてくる絶望感にアルルは慟哭した。
同時に激しい憎悪の炎が燃え上がる。
 
「グウゥゥ・・・ヨクモ・・・ヨクモォーッ!!」
誓いによって抑えられていた、黒い魔力が蘇ってくるのを感じた。
 
「クソー、ブッ殺シテヤルーー!!」
憎悪に捉われた蒼竜は、暗黒の炎に向かって飛び立った。
 
「――魔界ノ盟約ニ従イ、古ノ契約ヲ履行セヨ!」
 
アルルは、自分の生命力と引き替えとなる暗黒の魔法を唱えた――
 
 

 
「げへへ・・何が竜騎士だぁ。ちょろいもんだぜぇ」
「最後にどんな奴がでてくるかと思ったら、金髪のお嬢ちゃんときたもんだぁ」
 
使い魔達は、下品な声で笑い合った。
 
メリュジーヌは、そんな彼らの声を不快に感じていた。
(竜騎士のほうが、貴方達よりよっぽど崇高ですわ)
 
――ガシャアアーン!!
 
突然、すさまじい音と共に暗黒の炎が凍りついていった。
 
「な、なん・・・!」
声を出す間もなく凍りついてゆく使い魔達。
そこには、姉妹の召喚獣シヴァの姿があった。
 
「ヒ・・ヒィィィーー!」
使い魔達は散り散りに逃げ出した。
 
「な、なんですの!?」
馬鹿な、この村にまだこんな魔力を持った者が居る?
 
「あぅ・・」
凄まじい魔力に、はじき飛ばされるメリュジーヌ。
 
「貴様ガ・・・パドメヲ!」
メリュジーヌの前に、アルルが立ちはだかる。
 
「ブ、ブルードラゴン?」
メリュジーヌは目を疑った。
 
「な、なぜ貴方が人間に組するんですの?」
「人間ニ組シタワケジャナイ。愛スル者ヲ守ッテイタダケダ・・・ソレヲオ前達ガ・・・」
「言っている意味が分かりませんわ!」
「貴様ニ分カッテモラオウナド思ワン!」
 
アルルはマジックソードを放った。
「くっ!」
メリュジーヌは、それをかわしながら叫んだ。
 
「私だって・・・好きで戦ってる訳じゃないんですのよ!」
・・・そう、大好きなお姉様の下に帰るには・・・戦うしか・・・
 
メリュジーヌは飛竜に姿を変えると、アルルへ雷撃を放つ。
2匹の竜はお互いに魔力をぶつけ合い続けた・・・。
 
 
 
・・・メリュジーヌの背後で人影が動いた・・・
 
「!?」
只ならぬ邪悪な殺気にアルルは気付く。
 
「危ナイ!」
「な、何ですの!?」
アルルがメリュジーヌの前に飛び出すや、マジックアローがアルルの胸を貫いた。
 
「グッ!!」
そのまま、峡谷へ落ちていくアルル。
 
(・・・チッ、しくじった)
(・・・公爵様へ報告せねば)
(・・・クソッ、あの蒼竜さえいなければ)
 
「はぁ・・・はぁ・・・」
喘ぎながらメリュジーヌは、自分が狙われたことに衝撃を受けていた。
(あのブルードラゴンは・・・私を助けた・・・?何故・・・?)
 
 
川に流されながら、アルルはマジックアローの呪いが自分の魔力を喰い尽していくのを感じた。
 
(・・・もう・・・疲れたよ・・・)
呪いは自分の記憶をも喰い尽していく・・・。
 
アルルは空を見上げながら涙をこぼした。
(パドメ・・・ごめん・・・ごめ・・・)
 
やがて、アルルの意識は真っ白な闇の中へ落ちていった。
 

 
1人の武者が妖魔に囲まれていた。
 
「貴様らに討たれる位なら潔く・・・」
傷ついた武者は刀を首筋に当てた・・・そのとき、疾風が駆け抜けた。
 
「大事ないか?」
「わ、我が君!」
スズミヤ卿は、傷ついた武者を抱え上げながら疾風の如く走り去る。
 
「申し訳ありませぬ・・・他の者は全て・・・」
「何も言うな。良く生きていてくれた」
「・・・・」
その言葉に、武者は涙を流した。
 
「我が君、もはや・・・」
「うむ、やむを得まい。撤退じゃ」
「御意!」
 
騎馬武者達は踵を返し港へ向かう。
 
「うん?」
川辺に何か光るものが見えた。
 
「これは・・・」
そこには、傷ついた蒼竜が横たわっていた。
 
「まだ生きているようですが」
「・・・こやつを連れて帰る」
「え?この竜をですか?」
「・・・見よ」
 
スズミヤ卿は蒼竜を指差した。
「・・・竜騎士の鞍じゃ」
「なんと・・・」
「我が盟友を見殺しにはできん」
「御意!」
 
 
――この戦で
 
馬蹄の音を聞きながら、スズミヤ卿は考えていた。
 
――この戦で利を得る者とは、いったい・・・?
 
 
やがて、騎馬武者達は海の匂いが近づいてくるのを感じ始めていた。

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【2010/07/28 09:19 】 | SS | トラックバック()
悲しき戦い 前編
 暗黒の炎を眺めながら、メリュジーヌは想いにふけっていた。
 
――なぜあのようなことをなさったんですの?
――・・・わしは指示などしておらん。誰かが勝手にやったことだ
――え・・・パパではないんですの・・?
 
 
(いったい誰がこんなことを・・・人間を殺すに謀殺のような下衆な手段を使うなんて・・・)
メリュジーヌは憂鬱そうに溜息をついた。
 
 
――メリュジーヌよ。この村はお前に任せる
――私が・・・?
――この村には、魔力を持つものが居ると聞く。使い魔共だけでは心もとない
――パパはどうなさいますの・・・?
――アリアドスの小倅が軍を率いておる。それを殲滅した後、お前に合流しよう
 
 
(自分のやっていることは正しいのだろうか?)
人間の力では、決して消えることのない暗黒の炎を見つめながら、メリュジーヌは自問を続けていた。
 

 
「アルルさん、貴方は皆を守って。私の最後のお願いよ。」
パドメは神槍を持つと、暗黒の炎が燃えさかる村へ向き直った。
 
「待テ!オマエ1人デ何ガデキル!」
アルルはパドメを引きとめようとした・・・が、鎖に巻かれたように体は動かなかった。
 
「グ・・ヌウゥゥ・・・」
女神ウルディアの誓いの魔力。騎士の命には決して抗えない誓い・・・。
 
パドメは寂しそうに微笑み、ゆっくりと炎に向かって歩き始めた。
「待ッテクレ!頼ム!私モ連レテ行ッテクレー!」
 
アルルは叫びながら思った。
この少女に万が一のことがあったら・・・
 
(私も生きていない・・・生きていてもしょうがない・・・だから・・・頼むから・・・)
アルルは泣きながら叫び続けた。
 

 
砂竜の群れが押し寄せてくる。その前に異国の鎧をまとった騎馬武者が居た。
 
「ぬーん!」
武者が斧を振り回すと、砂竜達は次々に真っ二つになり倒れていった。
 
「我が君、この地にはもはや竜騎士は居りませぬ」
「そうか・・・」
スズミヤ卿は斧を降ろすと東へ目をやった。
 
「先鋒隊は、未だ戻らぬのか」
「は。知らせすらありませぬ。恐らく妖魔どもに・・・」
「うむ、ではわしが参ろう」
 
スズミヤ卿は、2・3の騎馬武者を連れ、竜騎士の村へと向かった。
 
――しかし解せぬ
 
スズミヤ卿は思った。
 
あの名誉を重んじるベルフェゴールが暗殺などするだろうか?  
結果、このような戦乱の引き金となり、もし勝利したとしても謀殺の徒として汚名は付いてまわろう。
万が一、敗戦にでもなろうものなら・・・。
 
スズミヤ卿は、暗黒の炎が燃えさかる村へと走り抜けていった。

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【2010/07/28 09:02 】 | SS | トラックバック()
星空
 ――満天の星空の下、金髪の少女はひとり空を眺めていた。
 
「パドメ」
「アルルさん」
竜騎士の鞍を身に着けた蒼竜が、少女のそばに寄り添った。
 
「妖魔ドモガ、攻メ込ミ始メタヨウダナ」
「・・・」
パドメと呼ばれた少女は、悲しそうに微笑んだ。
「明日には、アルカード王子様の騎馬隊が来てくれるでしょう」
 
「ナァ、パドメ」
アルルは気になっていたことを聞いてみた。
「女神ノ巫女ノアンタガ、何故竜騎士ナンカニナッタンダ?」
 
パドメは竜騎士の指輪を眺めながら微笑んだ。
「女神ウルディアの御心だから・・・私には巫女としてこの地を守る義務があります」
 
 
いかに戦時下といえ――
 いかにパドメの魔力が欲しいからといえ――
 このような無垢な少女をも戦火に巻き込むとは――
 
人間とは・・・愚かな・・・
 
 
アルルはゆっくりと体を回すと、人間の青年に姿を変えた。
「オ嬢様、私ト踊ッテイタダケマセンカ?」
「まぁ」
パドメは驚いてアルルを眺めた。
 
「くすくす・・貴方って器用ね」
「サァ、オ嬢様、手ヲ・・・」
「わ、きゃ・・」
 
二人の姿を満天の星たちが優しく照らしだした。
 
 
――せめてこのひと時が
 
アルルは思った。
 
――せめてこのひと時が、少しでもゆっくりと流れてゆきますように・・・

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【2010/07/28 09:01 】 | SS | トラックバック()
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