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「せぃっ!やぁ!」
いつものようにサクラは朝稽古を始めていました。
木の枝からいくつもぶら下がる石。その石を斧で次々に真っ二つにしてゆくサクラ・・・
・・・とは、中々いかないようです。
ごつん☆
「あいたぁー」
「フフフ・・・動キガツイテイッテナイゾ」
アルルが可笑しそうに言いました。
「つつ・・・ふぅー、上手くいかないわ。嫌になっちゃう」
「イッタイ、何ヲシテルンダ。コンナへんちくりんナ仕掛ケヲ作ッテサ」
アルルは、ロープカーテンの様にぶら下がった石を見上げて言いました。
「鏡に写る花の如く、水に写る月の如し、よ」
「ナンダ、ソリャ?」
「『これこそ、斗屡音怒(トルネード)流斧術の極意じゃ!』て老師が言ってたの」
「フーン。デ、ソノ極意トヤラノ意味ハナンダイ?」
「えーと・・・テヘッ、分かんなーい」
「・・・ダメダコリャ」
「鏡花水月・・・目には見えながら手にとることができないもの・・・」
いつのまにか、弓を携えた黒髪の少女がサクラを見つめていました。
「あ、さ、さくらさん」
サクラは、恥ずかしそうに声をあげました。
「見てたんですかー。恥ずかしいな」
「サクラさん、目をつぶって下さい」
さくらはおもむろにそう言うと、弓を引きサクラに狙いを定めました。
「オイ・・・ソレハ洒落ニナランゾ」
アルルはとっさにサクラの前に出ると、さくらを睨みつけました。
「サクラさん。貴女は自分が考えている以上の力を持っている。それを開花できないのは、貴女に覚悟がないから・・・」
さくらは、更に弓を引き絞りました。
「・・・アルル。そこをどいて」
サクラは、目をつぶると斧を構えました。
「マ、マジカヨ・・サクラ」
「覚悟が有るか無いか。はっきりさせてあげるわ!」
「良い度胸です!」
言うや否や、さくらの指が矢から離れ、ヒュン!という風を切る音が唸りました。
サクラの眉間に矢が突き刺さる―!
「ヒャッ!」
アルルはとっさに顔を背け、恐る恐るサクラのほうへ目をやりました。
「・・・お見事です」
矢はサクラの髪の毛を掠め、後ろの木へ深々と突き立っていました。
「目には見えても捕らえることはできない・・・これが斧術の究極奥義『鏡花水月』です」
「なぜ・・あなたは私の力を解花させようとするの?」
サクラはゆっくりと目を開けると、さくらに尋ねました。
「貴女の力が必要だから、です」
初めてさくらは、口元に笑みを浮かべました。
「もちろんアルルさん、貴方もですよ」
「さくらさん、あなた一体何者なの?」
「ふふふ、いずれ分かる時がきます。さぁ朝食の時間ですよ」
そういうと、さくらは歩き始めました。
(竜騎士アルル・・・このようなところで再会するなんて・・・)
さくらは竜騎士の村での出来事を思い起こしていました。
――暗黒の炎が燃えさかる村
――傷ついた村人達の前で歌う金髪の竜騎士の少女
(この歌はカームソング・・・彼女はウルディアの巫女だったのね)
――幻獣を呼び寄せ、妖魔の群れから村人達を守る蒼竜
(神獣アルル・・・貴方に私達は命を救われた・・・)
霜月さくらは、そっと後ろを振り返りました。
(竜騎士の・・・貴方達の力があれば王家は復興できる)
その頃、サクラは物思いに耽っていました。
「ナァ、サクラ。オ腹空イタヨ」
「・・・ん?あぁ、ごめん、ごめん。帰りましょうか」
二人は歩き出しました。
「ねぇアルル、この矢を見て」
「ナンダ・・・ン?コレッテ」
「この紋章・・・シルグムント王国のじゃないかな?」
「じぱんぐヘノ輸入品ニ入ッテタ印ダカラ、間違イナイナ」
「そっか・・・そういうことなのか」
「ナルホドナ」
「アルル、しばらくこのことに気付いてない振りをするのよ」
「アァ、面白クナッテキタナ」
運命の歯車が、ゆっくり、そして大きく回り始めました。
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