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「― 痛っ!」
右足に激痛が走り、サクラはその場にうずくまりました。
「だ、大丈夫、ご主人さ・・・ひゃ!え、えらい血が出てるー」
(さっき弾き飛ばされたときね。この痛み・・・恐らく骨折してる―)
「へ・・・平気よマリア。さぁ、行くわよ」
「あかんあかん。早よ、エナジーフィールドで治さな・・・」
「こんなところで、治癒技を無駄にできないわ。アルマちゃんやさくらさんに迷惑がかかる」
サクラは止血帯を付けると、足を引きずりながら歩き始めました。
「む、無茶やぁー。ご主人さまぁー・・・」
半ベソをかきながらサクラを引き止めようとするマリア。
「こんな・・・ところで、負けるわけに・・・いかない・・・のよ」
(―だめ・・・痛みで目が霞んで・・・)
もうろうとして倒れこむサクラ。
その時、がっしりとした腕がサクラの体を受け止めました。
「なかなか良い線行ってるが、まだ足りないものがあるな」
金色の髪、涼やかな目をした青年がサクラを抱え上げました。
「今のサクラに足りないものは仲間への信頼、だな」
「そうよ、ギルド一のヒーラーが居るのに失礼よね」
同じく金色の髪に碧い目の少女がウィンクをしながら言いました。
「ア、アルディンさん・・・アルマちゃん・・・」
「さ、これで大丈夫・・・。立てる?サクラちゃん」
アルマはサクラへ治癒魔法を施しました。
「アルディンさん、アルルが・・・」
「あぁ、少々やっかいなことになってるようだな」
「急がなきゃ。メリュちゃんが・・・」
再び、サクラは走り出そうとしました。
「自分ひとりで抱え込むんじゃない。何の為の仲間なんだ」
ピシャリとアルディンが言いました。
「アルルは貴女の友達だけど、私たちの仲間でもあるのよ」
「アルマちゃん・・・・」
「私達も行くわ。アルルの魔力に対抗するには一人じゃ無理ね」
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(いつかは話さなければいけませんわね・・・)
そばには、ロシェルが静かな寝息を立てています。
寝付けないメリュジーヌは、そっと寝床を抜け出しました。
(不思議ですわ。遺跡の中なのに星が・・・マナの力ですの?)
そっと空を見上げるメリュジーヌ。
不意に背後に凄まじい殺気を感じ、息をのみました。
(な、なんですの?)
後ろを振り返るメリュジーヌ。
そこには、今まで見たことがないほど巨大なブルードラゴンが自分を見下ろしていました。
「ルルル・・・・」
「――」
あまりの恐怖に凍りつくメリュジーヌ。
「古ノ盟約ニ従イ、我ガ仇敵ヲ塵ト化セ・・・リアライズ(幻獣召喚)!」
ブルードラゴンが呪文を唱えると、メリュジーヌの周りを8体のベルゼブブが取り囲みました。
(あ、悪魔を一気に8体も召喚するなんて・・・な、なんて魔力・・・)
「アノトキノ借リヲ返サセテモラウ」
「ア、アルルさんですの?」
ベルゼブブが一斉にメリュジーヌへ襲い掛かる。
「くっ」
メリュジーヌは攻撃をかわしながら叫びました。
「アルルさん、お友達を死なせたことは申し訳ないと思ってますわ!でも・・・でも、私もあの時は・・・」
ベルゼブブの魔撃がメリュジーヌの肩を掠める。
「きゃっ・・・わ、分かってくださいませ。あれは・・・あれは戦争でしたのよ!」
「・・・ナゼ戦ワナイ」
「お友達を傷つけることは、私にはできませんわ」
「アレダケ人ヲ殺メテオイテ・・・笑止!」
アルルは翼を広げ空へ飛び立つと、魔力を集中しました。
「シュウゥゥ― 闇ヨリモナオ暗キモノ、混沌ノ海ヨリ蘇リ・・・」
(こ、この波動はパンデモニウム・・・)
考える暇もなく、メリュジーヌへ無数の魔法の刃が襲い掛かる。
その時、一筋の閃光がアルルの前を横切りました!
「大丈夫?メリュちゃん!」
「サ、サクラちゃん」
メリュジーヌを抱きかかえ、稲妻の如く魔法の刃の追撃をかいくぐるサクラ。
「 カワシタ!?」
「アルル、目を覚まして!」
魔法の刃が次々とサクラの残像を貫いていく。
―― ジュドウは心の狭い、愚かな男にござりました
「アルル!争いからは何も生まれないの!」
―― 憎しみは大切なものを奪い去る。このことにようやく気付き申した
「アルルー!・・・お願い・・・聞いてー!」
サクラは泣きながら叫びました。
「お願い・・・自分を守ってくれた・・・仲間を・・・仲間を傷つけないでー!」
ドクン!
―― 貴方は皆を守って。私の最後のお願いよ
(パドメ!)
温かい思い出が走馬灯のようにアルルの脳裏を横切る。
ベルゼブブの姿が徐々に薄らぎ・・・
魔法の刃が消えてゆく・・・・
「メリュ、大丈夫か?」
2人の下に駆け寄るアルディン。
「大丈夫。かすっただけのようだわ」
トリプルエイドを唱えながらアルマが言いました。
「ルルル・・・」
巨大なブルードラゴンはゆっくりと地上に降り立ちました。
「マリア・・・下がっていて」
「ご、ご主人さまぁ~」
サクラは武器を持たずアルルの前へ進んで行きました。
「・・・最強ノ魔力ヲ持ツ妖獣ノ王・・・フ、トンダオ笑イ草ダ」
「・・・」
「タッタ一人ノ少女スラ守レナイノニ・・・何ガ竜騎士ダ」
「・・・アルル」
いつの間にか巨大なブルードラゴンの姿は消えていました。
「メリュガ憎カッタンジャナイ・・・自分ガ嫌ダッタンダ・・・」
いつもよりも小さく――
哀しいほど小さくなったアルルがつぶやきました。
「アノ時モ・・・ソノママ、矢ニ貫カレテ死ンデシマイタカッタ・・・」
大粒の涙がアルルの目から零れ落ちました。
「パドメハ・・・パドメハ、私ガ初メテ愛シタ人間ダッタンダ」
「その人、幸せだったと思うよ。アルルに愛されて―」
アルルが顔を上げると、いつもの、太陽のような、笑顔が自分を見つめていました。
「そして、アルルはレギオンズソウルの仲間に愛されている」
アルディンが力強い声で言いました。
「アルルさん、サクラちゃん、ごめんさない・・・私・・・私・・・」
涙ながらに言葉を続けるメリュを抱きかかえながらアルマが言いました。
「戦争に遭って、皆つらいことがあった。でも、偽島で仲間になった。もう敵じゃないの」
騒ぎを聞きつけ、いつの間にかギルドの仲間達が集まってきました。
「何かあったかむに~?」
「お、アルル何で泣いてるみゃ~?」
「あらあらまあまあ、きっとお腹が空いて夜泣きしたんですのよ。はいクッキーですわ」
自然とアルルの周りに人の輪ができました。
ふとアルルは懐かしい声が聞こえた気がしました。
――いや、気のせいだ
「あー、アルルだけずるいみゃ~。ママ様ボクにもー」
――パドメはもう居ない。でも私には・・・
アルルは、あの時と同じ満天の星空を見上げました。 PR |
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