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蒼竜は沈んだ目で、自分に付いていたという鞍を眺めていました。
(・・・女神ウルディアの守りあれ・・・か・・・)
アルルは、鞍に彫りこまれた文字に目を滑らせると溜息をつきました。
――私は何故ここにいるんだろう?
――いったい自分に何が起こったというのだろう?
「思イ出セナイ・・・」
アルルは暗い顔でうつむきました。
后は、そんなアルルの様子を部屋の中から見つめていました。
「后よ」
「あなた・・・」
スズミヤ卿が部屋に入ってきました。
「いかがでしたの?」
「うむ、シルグムントは崩壊。妖魔と帝国が手を組み侵略を始めたようだ」
「そんな・・・」
「隣国から援軍要請がきておる」
「・・・また戦争なのですね」
后は憂いの眼差しでスズミヤ卿を見つめました。
「ベルフェゴール家が滅亡し、妖魔達を抑えることができなくなったのでしょうね・・・」
「うん?なぜそれを?」
「今朝、私の祖国より密使が参りました」
「クラウンフィールド皇国から密使とな」
后はスズミヤ卿へ手紙を手渡しました。
「・・・クラウンフィールド皇国には、まだ被害は及んではおらぬ・・か」
「ええ、目下の目標は東方諸国のようですわ」
スズミヤ卿はゆっくりと椅子に腰をかけました。
「国防のため、サクラを諸国の王と結婚させろと、大臣共がうるさくての」
「可愛そうなサクラ・・・」
ふと、スズミヤ卿は窓の外へ目をやりました。
「ところで、竜の様子はいかがじゃ」
「ええ、可愛そうに、大半の魔力と記憶を無くしているようですわ」
「そうか」
「相当つらいことがあったのでしょう。誰にも心を開こうとしませんわ」
后も窓の外を眺めました。
(教えてくれ・・・女神よ・・・)
アルルの頬を涙が伝いました・・・・とその時、ふいに後ろから首固めを掛けられました。
「暗ぁーい顔してる子は、いねーがぁ?w」
「ワンワンワン!」
「ウグ・・・グ・・・ク、苦シイィー」
アルルは必死に手を振り払うと、不届者の方へ向き直りました。
「コノ馬鹿力メー!マジデ死ヌカト思ッタゾー!」
「あはははー、ごめん、ごめん」
そこには、桜色の髪の少女が舌を出して笑っていました。
「でも、暗い顔してると暗いことしか起こらないって、占いの婆っちゃが言ってたわよ」
アルルは眩しそうに、笑顔の少女を見上げました。
「私はサクラ、サクラ=スズミヤ。これでも一応お姫様なんだからね」
「ワンワンワン!」
「この子はおとうさん。じぱんぐじゃ有名な白犬なのよ」
「ワ、私ハアルル・・・。」
「よろしくね。アルル」
サクラは、太陽のように微笑むと白犬の耳元へ何やら囁き始めました。
「ごにょごにょごにょ・・・」
「クンクンクンw」
「!?オ、オ前、獣語ヲ操レルノカ?」
「うふふ、何となくねぇ・・・それっ♪」
「ワン、ワン♪」
サクラと白犬はアルルに飛び掛ると、一斉にくすぐり始めました。
「こちょこちょこちょー♪」
「ワンワンワンー♪」
「ギャハハハハー、ヤ、ヤメテェー」
「――姫君には神の使いが寄り添うことになりましょう」
「御婆殿」
アルルとサクラの様子をスズミヤ卿が眺めていると、術師の老婆が部屋へ入ってきました。
「神の使いとは・・」
「左様。この蒼竜は異国の女神の使い・・・そして姫君こそ、この国の最後の希望」
「御婆殿・・・」
「全ては運命。この地は女神の御心の下、救われることとなりましょう」
后は再び窓の外へ目をやりました。
「サクラが・・・」
「コンノォー、モウ許サンー!」
「きゃー、怒ったー!にゃはははー♪」
「ワンワンワンー♪」
夢中になってサクラを追いかけるアルル。
(久しぶりだ)
空を飛びながらアルルは思いました。
(こんな楽しい気持ち、久しぶりだ)
「コノ、アルル様カラ逃ゲラレルト思ウナヨー、フフフ・・・・アハハハ」
「鬼さんこちらー、あははー♪」
じぱんぐの晴天の空の下、いつまでも二人の笑い声が響き渡りました。
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