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【2024/04/29 10:10 】 |
悲しき戦い 後編
「!?」
突然体が軽くなるのをアルルは感じた。
 
「エ・・・エ・・・?」
 
誓いの魔力が解けた?
 
ということは・・・
 
「・・・ウソダロ・・・ウソダ・・・ウ・・・ウソダァァァーーーッ!!」
 
突き上げてくる絶望感にアルルは慟哭した。
同時に激しい憎悪の炎が燃え上がる。
 
「グウゥゥ・・・ヨクモ・・・ヨクモォーッ!!」
誓いによって抑えられていた、黒い魔力が蘇ってくるのを感じた。
 
「クソー、ブッ殺シテヤルーー!!」
憎悪に捉われた蒼竜は、暗黒の炎に向かって飛び立った。
 
「――魔界ノ盟約ニ従イ、古ノ契約ヲ履行セヨ!」
 
アルルは、自分の生命力と引き替えとなる暗黒の魔法を唱えた――
 
 

 
「げへへ・・何が竜騎士だぁ。ちょろいもんだぜぇ」
「最後にどんな奴がでてくるかと思ったら、金髪のお嬢ちゃんときたもんだぁ」
 
使い魔達は、下品な声で笑い合った。
 
メリュジーヌは、そんな彼らの声を不快に感じていた。
(竜騎士のほうが、貴方達よりよっぽど崇高ですわ)
 
――ガシャアアーン!!
 
突然、すさまじい音と共に暗黒の炎が凍りついていった。
 
「な、なん・・・!」
声を出す間もなく凍りついてゆく使い魔達。
そこには、姉妹の召喚獣シヴァの姿があった。
 
「ヒ・・ヒィィィーー!」
使い魔達は散り散りに逃げ出した。
 
「な、なんですの!?」
馬鹿な、この村にまだこんな魔力を持った者が居る?
 
「あぅ・・」
凄まじい魔力に、はじき飛ばされるメリュジーヌ。
 
「貴様ガ・・・パドメヲ!」
メリュジーヌの前に、アルルが立ちはだかる。
 
「ブ、ブルードラゴン?」
メリュジーヌは目を疑った。
 
「な、なぜ貴方が人間に組するんですの?」
「人間ニ組シタワケジャナイ。愛スル者ヲ守ッテイタダケダ・・・ソレヲオ前達ガ・・・」
「言っている意味が分かりませんわ!」
「貴様ニ分カッテモラオウナド思ワン!」
 
アルルはマジックソードを放った。
「くっ!」
メリュジーヌは、それをかわしながら叫んだ。
 
「私だって・・・好きで戦ってる訳じゃないんですのよ!」
・・・そう、大好きなお姉様の下に帰るには・・・戦うしか・・・
 
メリュジーヌは飛竜に姿を変えると、アルルへ雷撃を放つ。
2匹の竜はお互いに魔力をぶつけ合い続けた・・・。
 
 
 
・・・メリュジーヌの背後で人影が動いた・・・
 
「!?」
只ならぬ邪悪な殺気にアルルは気付く。
 
「危ナイ!」
「な、何ですの!?」
アルルがメリュジーヌの前に飛び出すや、マジックアローがアルルの胸を貫いた。
 
「グッ!!」
そのまま、峡谷へ落ちていくアルル。
 
(・・・チッ、しくじった)
(・・・公爵様へ報告せねば)
(・・・クソッ、あの蒼竜さえいなければ)
 
「はぁ・・・はぁ・・・」
喘ぎながらメリュジーヌは、自分が狙われたことに衝撃を受けていた。
(あのブルードラゴンは・・・私を助けた・・・?何故・・・?)
 
 
川に流されながら、アルルはマジックアローの呪いが自分の魔力を喰い尽していくのを感じた。
 
(・・・もう・・・疲れたよ・・・)
呪いは自分の記憶をも喰い尽していく・・・。
 
アルルは空を見上げながら涙をこぼした。
(パドメ・・・ごめん・・・ごめ・・・)
 
やがて、アルルの意識は真っ白な闇の中へ落ちていった。
 

 
1人の武者が妖魔に囲まれていた。
 
「貴様らに討たれる位なら潔く・・・」
傷ついた武者は刀を首筋に当てた・・・そのとき、疾風が駆け抜けた。
 
「大事ないか?」
「わ、我が君!」
スズミヤ卿は、傷ついた武者を抱え上げながら疾風の如く走り去る。
 
「申し訳ありませぬ・・・他の者は全て・・・」
「何も言うな。良く生きていてくれた」
「・・・・」
その言葉に、武者は涙を流した。
 
「我が君、もはや・・・」
「うむ、やむを得まい。撤退じゃ」
「御意!」
 
騎馬武者達は踵を返し港へ向かう。
 
「うん?」
川辺に何か光るものが見えた。
 
「これは・・・」
そこには、傷ついた蒼竜が横たわっていた。
 
「まだ生きているようですが」
「・・・こやつを連れて帰る」
「え?この竜をですか?」
「・・・見よ」
 
スズミヤ卿は蒼竜を指差した。
「・・・竜騎士の鞍じゃ」
「なんと・・・」
「我が盟友を見殺しにはできん」
「御意!」
 
 
――この戦で
 
馬蹄の音を聞きながら、スズミヤ卿は考えていた。
 
――この戦で利を得る者とは、いったい・・・?
 
 
やがて、騎馬武者達は海の匂いが近づいてくるのを感じ始めていた。

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